コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第135回
Rödbetor(ロードベートル) レッドビーツのおはなし

Rödbetor(ロードベートル) レッドビーツの歴史

4000年前のバビロニアで、すでに原種が存在していたと言われる、レッドビーツ。その後、地中海地方で栽培されるようになり、ヨーロッパ全土や中国にまで広まりました。
ローマ時代には、蜂蜜とワインで煮たレッドビーツが食べられていたそうですが、食用にされたのは主に葉っぱの部分で、根の部分は薬として使用されていたと言われています。解熱や便秘解消といった一般的な治療以外に、何と媚薬としても使用されていたそうです。

1600年代には、スウェーデンでもレッドビーツが栽培されるようになりました。当時は、輪切りにしてバターで炒めたレッドビーツをクミンとホースラデッシュで味付けし、スパイス入りのウオッカと共に食べたり、主に王室ではホースラデッシュで味付けしたレッドビーツが酢漬けにして食べられていました。しかし、主食となったじゃがいもに比べると、家庭料理の食材としてそれほど重要な位置づけはされなかったようです。
1800年代に入り、レッドビーツの鮮やかな色に魅せられたフランスのシェフたちによって、料理にはもちろんクッキーやデザートの色付けなど、幅広く使用されるようになったのだとか。葉の部分も残さず、テーブルに飾られたといいます。

このように時代とともに使われ方が変化してきたレッドビーツ。最近ではフライやドライにしたチップスになり、スナックとしても食べられるようになりました。さらに、抽出された赤い色は食用インクとしても使われているそうです。

現在は、葉の部分を切り落として売られていることが多く、ちょっともったいない気もしますが、
葉の部分はほうれん草に近い味で栄養素もたっぷり詰まっているので、葉付きで売っている場合は、ぜひ捨てないで利用してみてください。
ちなみに私は、葉付きのレッドビーツが手に入ったら、すぐに葉の部分を切り落としてさっと茹で、冷凍庫に保管しています。もう一品欲しい時に和え物にしたり、味噌汁の具にも使えて便利ですよ。

レッドビーツの栄養価

「赤かぶ」と呼ばれることがあるため、かぶと同じ種類だと思われやすいレッドビーツですが、実は砂糖の原料としても使われる「甜菜(てんさい)」の仲間です。

「ビーツ」の名前の由来は、「赤い色」という意味のケルト語からきたものだとか。栄養素が豊富で、血液のような鮮やかな赤い色をしていることから、日本では「食べる輸血」とも呼ばれています。また16世紀のヨーロッパで、ビーツの根から砂糖の成分を抽出したことをきっかけに改良され、現在のような食用に適したビーツになったことから「テーブルビーツ」とも呼ばれます。その他にも「ガーデンビーツ」や「ディナービーツ」など、異なった呼び名がいくつかあるそうです。
レッドビーツの根には特にビタミンCが豊富に含まれていて、葉には必須ミネラルのカリウムや鉄のほか葉酸が含まれています。葉酸はDNAの合成に関わるビタミンで、妊娠中の女性に必要な栄養素の一つとされています。また、鮮やかな赤紫色のレッドビーツに含まれるポリフェノール「ベタシアニン」には、強力な抗酸化作用があるそうです。何千年も前からこのような効用を知り、利用してきた先人たちの知恵には驚くばかりです。

実は、レッドビーツは江戸時代初期に日本にも入ってきましたが、食生活に合わなかったせいか、残念ながら普及しなかったようです。現在では、美味しく食べるための調理法や魅力的なレシピがたくさん紹介されていますので、すすんでこのスーパーフードをメニューに取り入れたいものですね。

ビーツの種類には、レッドビーツの他にイエロービーツやポルカビーツと呼ばれる切り口が白と赤の渦巻模様の可愛らしいものなど、様々な種類があり、サラダなどのアクセントとして重宝します。

<トリビア>
15世紀のイタリアの科学者は、ビーツにはにんにく臭を消す効果があるとし、にんにくと一緒に食べることを奨励したのだとか…
また、一般的にコロンとした丸い形で知られるビーツですが、実は数百年前まではニンジンやサツマイモのような細長い形をしていたのだそう。ちょっと驚きですね!

レッドビーツを使った料理

地中海からヨーロッパに広まったレッドビーツは、寒い地方でも栽培がしやすく、特にベルギーや北欧諸国、そしてロシアで人気の食材となりました。現在、レッドビーツを使った代表的な料理といえば、東ヨーロッパの伝統料理「ボルシチ」が有名ですね。

今までコラム「12ヵ月の美味しい話」でもご紹介しているように、スウェーデンにはレッドビーツを使ったレシピがたくさんあり、家庭料理に欠かせない食材となっています。国民的食材として認識されている証のひとつとして、毎年開催されるノーベル賞受賞の晩餐会にもレッドビーツが度々登場しています。

晩餐会の料理に使われる食材は、原則として国内産を使うと決められていて、スウェーデン特有の素材でおもてなしをするという設定になっています。ビーツは頻繁に使われる食材で、近年のメニューにイエロービーツが使用されました。2023年度は海藻と一緒にオーブンで焼いたものが前菜のプレートに使われ、2022年度はメイン料理の鹿肉に鮮やかなイエロービーツが添えられていました。

スウェーデンでは、酢漬けのレッドビーツを常備していない家庭はないと確信できるほど、多くの料理や付け合わせに使われていて、家庭料理の代表「ピッティパンナ」には酢漬けのレッドビーツが欠かせません。イケアでもお馴染みのミートボールには、リンゴンベリーのジャムを添えるのが定番ですが、ジャムの代わりに酢漬けのレッドビーツを食べる人も少なくありません。甘いジャムは苦手、という方には、是非一度試してみて欲しいです。他にも、リンゴンベリーが添えられた肉料理なら、レッドビーツの酢漬けは良く合います。
また、ピンク色のレッドビーツのサラダはクリスマスディナーにもよく使われ、レッドビーツで色付けしたマリネサーモンは、近年クリスマスディナーの人気料理となっています。スウェーデンの人々にとってレッドビーツは、色の鮮やかさで食卓を華やかにしてくれるとても魅力的な食材なのです。

最近気になっているのが、ピンク色のトルティーヤです。私がスウェーデンに住んでいた頃にはなかったので調べてみると、やはりレッドビーツで色付けしてありました!日本では手に入らないので、トルティーヤから手作りしないといけませんが…サーモンを挟み、ロールサンドにしたフィンガーフードにも挑戦してみたいです。
その他にも、レッドビーツのハッシュドポテト風、中近東のひよこ豆を使ったディップ「フムス」のレッドビーツ入り等、気になる最新のレシピを見つけました。今後、コラム「12ヵ月の美味しい話」でもご紹介したいと思いますので、ぜひ一緒に楽しみましょう。

*** レッドビーツを使ったレシピ ***
第18回 Rödbetor(ロードベートル)レッドビーツ レッドビーツの酢漬け
第34回 Biff a la Lindstrom(ビッフ・ア・ラ・リンドストロム) レッドビーツ入りミニハンバーグ
第53回 Rödbetor med fetaost(ロードベートル・メ・フェータオスト) レッドビーツとフェタチーズのサラダ
第91回 Rödbetssoppa (ロードベーツソッパ) レッドビーツのスープ
第92回 Köttbullemacka med rödbetssallad (ショトブッレマッカ・メ・ロードベーツサラッド) ミートボールサンドとレッドビーツサラダ
第93回 Hovmästarsås(ホーヴメスタルソース) スウェーデン風スウィートマスタードソース
第105回 Rödbetskaka (ロードベーツカーカ) レッドビーツのケーキ

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by Sweden House
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見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイサー)
見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイザー)
奈良県出身。パレットクラブイラストスクール1期生。
デザイン事務所勤務を経てフリーランス・イラストレーターとして仕事を始める。
1995年より通算13年間スウェーデンに在住、2013年に帰国。
帰国後はスウェーデン料理のケータリング事業を始める。
Fika(スウェーデンのコーヒータイム)のワークショップをとおして北欧文化を発信中。
https://www.riekomise.com/
https://www.instagram.com/spisen_jp/