コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

スウェーデンでは今、手工芸への関心が高まり、手で作ることの魅力が改めて見直されています。実際にどのような変化が起きているのでしょうか。スウェーデン手工芸協会の直営店Svensk Hemslöjdの店長にお話を伺いました。

「ここ数年で、ものづくりを始める方がとても増えています。刺繍や編み物など、手を動かす時間を求める方が多いですね。『マインドフルネスの時間がほしい』という声もよく聞きます」と店長のJennyさんは話します。忙しい日常のなかで、静かに手を動かす時間が、心を整えるひとときになっているようです。
最近は、自分の暮らしのための道具を作る人も増えているそうです。とくに人気なのが、ナイフで木を削ってバターナイフやスプーンなどのキッチン道具を作る木工です。「自分の手で生活の道具を作ることに魅力を感じる方が多いのだと思います」と店長。木の香りを感じながら少しずつ形を整えていく作業には、既製品にはない特別な楽しさがあると語ります。

その背景には、デジタル機器から少し距離を置きたいという思いもあるといいます。「スマートフォンから離れて、テレビを見ながらでも手を動かしていられる。そんな時間を求めている方が多いのではないでしょうか」。手仕事は、忙しい現代の生活の中で、静かなリズムを取り戻すきっかけにもなっています。
最近では手工芸がテーマの展示会も多く開催され、記録的な来場者数を記録しているという報道もあります。そしてストックホルム市内にも手仕事のワークショップを楽しめる場所が増えています。手工芸は人と人をつなぐ場にもなっているのですね。図書館や美術館のカフェなどでは編み物の集まりが頻繁に開催されていますし、手工芸を教える学校やスウェーデン国内にある手工芸ショップなどでも数時間から参加可能なワークショップなど、仲間と一緒に手仕事を楽しむ機会が増えています。最近ではアパートの地下に織り機を置いて、住人が楽しめる織物小屋や織りのコレクティブ(共同体)が出現してきているという話も聞きます。「手工芸を通してコミュニティが生まれ、孤独を感じている人の支えになることもあります」と店長は語ります。

126年以上の歴史のあるスウェーデン手工芸協会の店頭でも、その変化ははっきりと感じられるそうです。手作りのための材料を求める人が増え、刺繍や編み物や「Rya」と呼ばれる織物のキットが大人気なのだそう。ワークショップや講座についての問い合わせも多くなっています。
さらに、完成した手工芸品を購入したいという人も増えています。地元で作られたもの、環境に配慮した素材で作られたもの、そして大量生産ではない一点もの。そうした価値を持つ品に、多くの人が魅力を感じ、暮らしの中で使いたいと思う人が増えているのですね。
手で作ること、そして手で作られたものを大切にすること。スウェーデンでは今、手工芸が暮らしを豊かにする文化として、改めて注目を集めています。



スウェーデンの暮らしの中で、テキスタイルは古くから特別な意味を持ってきました。北欧の長く厳しい冬をあたため、家族の人生の節目を彩るものとして大切に扱われてきたのです。
かつてスウェーデンでは、女性たちが暮らしに必要な多くのものを自らの手で作っていました。リネンを育て、糸を紡ぎ、生地を織り、刺繍を施す。カーテンやベッドカバー、ハンドタオルにいたるまで、日常の布は家庭の中で生み出されていました。そうして作られたテキスタイルは、単なる生活用品ではなく、時間と手間をかけて生まれた貴重な財産でもありました。
馬車用の敷物にクッション、裂織(さきおり)のマット、ハレの日やケの日に着分ける民族衣装など、家にたくさんのテキスタイルがあるということはそれだけ豊かな創造の指先を持っていたということ。そしてそれは富の象徴でもありました。
そのため多くの家庭ではテキスタイルを大切に保管し、世代を超えて受け継いできました。結婚を控えた女性が、新しい暮らしのためにクロスやナプキンを織り、イニシャルを刺繍して準備する習慣もあり、そのようにして暮らしのために大切に作られたテキスタイルは「Linneskåp(リンネスコープ)」と呼ばれる戸棚や「Kista(シースタ/木箱)」に収められ、暮らしに寄り添ってきました。

切り絵作家でテキスタイル・アーティストでもあるアグネータ・フロックさんの家では、こうした伝統が今も息づいています。暮らしの中でいろいろなテキスタイルを楽しむアグネータさん。彼女の家では、母や祖母から受け継がれたバンド織りの紐、クッション、クロスや刺繍布が、特別な日だけでなく日常の中でも使われています。
「今日はお庭のフィーカにはこのクロスを使いましょう」「そろそろアドベントなのでクリスマスの赤いクロスを飾ろうかしら」
アグネータさんの家では、季節や行事に合わせてテキスタイルを替えることで、空間に温かな雰囲気を生み出す習慣も大切にされています。テキスタイルは寒さから身を守るだけでなく、暮らしを美しく整える存在として生き続けているのです。
時代が変わった今も、彼女の家に残る古いテキスタイルには、手仕事のぬくもりと、その土地で生きてきた人々の物語が静かに宿っています。スウェーデンのテキスタイル文化は、こうした家庭の営みを通じて育まれ、今も日々の暮らしに深く根付いているのです。

アグネータさんのテキスタイルのある素敵な暮らしについては、こちらの書籍に一部ご紹介がございます。
北欧のテキスタイルと暮らし
https://pie.co.jp/book/i/6078/
スウェーデンの雄大な自然に囲まれたイェムトランド地方。この地で1946年に産声を上げた「Frösö Handtryck」は、北欧でも数少ない、伝統的なハンド・スクリーン・プリントを守り続けるテキスタイル工房です。

創業は1946年。ストックホルムから北に600kmにある街Östersundにあるフローソー島で生まれました。島は41km²と比較的大きく、古代の砦や、世界最北のルーン石碑も建っており、1000年近くにわたりこの地方のかつての中心地だった場所。文化、貿易、そして交通の拠点でした。

2019年に拠点をネールデンという小さな村へと移しました。現在彼らが工房を構えるのは、かつての「ネールデン羊毛紡績所」の建物。煉瓦の堅牢な作りにテキスタイルの工房としてはぴったりの間取りや大きさ。別の繊維会社が幕を閉じたその場所で、彼らは再び職人の息吹を吹き込み、スウェーデンの伝統を次世代へと繋いでいます。


Frösö Handtryckを語る上で欠かせないのが、その独自の技法です。同じくハンドプリントで有名な「Jobs Handtryck」とよく比較されますが、大きな違いは使用する「染料」にあり、水溶顔料を使用することにこだわっています。この技法は、繊維の表面に色を定着させるため、色褪せしにくい(耐光性が高い)という利点があります。
さらに、一般的な反応染料とは異なり、プリント後の大規模な洗浄工程を必要としないため、生産時に水の使用量を最小限に抑えられるのが特徴です。品質へのこだわりと、現代的なサステナビリティの視点が見事に融合しています。
60〜80年代にはテーブルクロスやお家を飾るためのテキスタイルを数多く生み出してきました。現在は伝統的なJobsのパターンもいくつか手がけているほか、カリン・マネルストールやヴァニア・ジャナイエフなどの著名なデザイナー達、そこから広がり現代のデザインシーンを牽引する若手デザイナー達とのコラボレーションにより、遊び心あふれるグラフィックやモダンな表現が確立されたオリジナルコレクションで現代の暮らしを彩る独自の表現を追求しています。



80年以上の歴史は、決して平坦な道ではありませんでした。幾度もの破産危機を乗り越えて今日があるのは、「この美しい手仕事の灯を消してはならない」という熱意を持った人々がいたからです。このような規模で手作業によるテキスタイルの大規模生産を行うハンドプリント工房は、スウェーデン国内でも今やわずか2社。効率化が進む現代において、職人が一刷りずつ魂を込めるFrösö Handtryckの布地は、単なるインテリアを超えた「生きた文化遺産」として、今も人々の暮らしを彩り続けています。
