コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

「ファールンレッド」という言葉を聞いたことはありますか。
スウェーデンハウスの象徴ともいえる、あの「べんがら色」。スウェーデンでは、この色を「ファールンレッド」と呼びます。この独特の赤い色は、ダーラナ地方のファールンにあるファールン鉱山(2001年にユネスコ世界遺産に登録)に由来します。かつてここで採掘された銅の副産物が塗料として使われたことから、この色が生まれました。今回は、スウェーデンの家に欠かせないこの「ファールンレッド」についてご紹介します。

ファールン鉱山のあるダーラナ地方の風景
スウェーデン中部にある町ファールン/Falun。この静かな町は、かつてヨーロッパの歴史を動かすほどの力を持っていました。町の中心にあるファールン鉱山では、中世から長きにわたり銅が採掘され、17世紀にはヨーロッパ全体の約70%の銅を供給していたとも言われています。技術や制度の面でも先進的で、ここでの労働は後の産業社会の基盤づくりにも大きな影響を与えました。
しかし、その長い歴史は1992年に幕を閉じます。採掘が進むにつれて鉱石の質は低下し、より深く掘る必要が生まれました。するとコストは増大し、海外からの安価な銅との競争も激しくなります。さらに安全性や環境への配慮といった新たな課題も加わり、かつて世界の中心だった鉱山は、時代の変化の中で役割を終えることになったのです。
しかしながら、この「終止符」は単なる終わりではありませんでした。採掘の過程で生まれた赤い土はファールンレッドとなり、今もスウェーデンの風景を彩り続けています。そして2001年、この地は世界遺産として世界に認められ、新たな価値を持って受け継がれることになりました。役目を終えたものが、別のかたちで生き続けるファールンの物語は、終わりの中に次のはじまりがあること、そして価値は時代とともに姿を変えることを静かに教えてくれます。

ファールン銅山から生まれた天然塗料は16世紀から使われており、現在でも同じレシピに近い形で作られています。ファールン銅山から出た大量の廃棄物から赤い塗料が作られた、いわば「産業廃棄物のアップサイクル」なのです。ファールンレッドは木造住宅を守る実用性として、防腐・防カビ効果があり、厳しい北欧の気候から木を守るという、見た目以上に「機能的な塗料」でした。しかも、その色合いがレンガ風でおしゃれであり、当時のヨーロッパで高級であったレンガ建築に似せることができました。木の家を赤く塗ることで 「レンガ風=裕福」に見せることができた、これがスウェーデンで大流行となったきっかけです。

世界遺産として保存されているファールン鉱山

白枠の窓が引き立つファールンレッドの家
スウェーデンの風景を思い浮かべるとき、多くの人の頭に浮かぶのは「赤い外壁に白い窓枠」という組み合わせではないでしょうか。この印象的な配色は、単なるデザインではなく、歴史・実用性・美意識が重なり合って生まれたものです。
「ファールンレッド」は銅鉱山の副産物から生まれた天然塗料。木の外壁を守りながら、深みのある赤で自然の中に美しく映える家をつくります。では、なぜそこに「白い窓枠」が組み合わされるのでしょうか。その理由のひとつは、光を最大限に取り込むための知恵。北欧の冬は長く、日照時間が極端に短くなります。そのため、家の中に光を取り込む工夫はとても重要でした。白は光を反射する色のため、窓枠を白くすることで、外から入るわずかな光を室内へと効率よく導く役割を果たしていたのです。
もうひとつの理由は白と赤とのコントラストが生む美しさ。ファールンレッドの深い赤に対して、白は最も美しく映える色です。赤は重厚で自然に溶け込む色であり、白は輪郭を際立たせる色。この組み合わせによって、建物の形や窓の配置がくっきりと浮かび上がり、シンプルなのに印象的であり、遠くからでも美しく見えます。これは、北欧デザインに通じる「引き算の美学」とも言えます。
そしてもうひとつは「裕福さ」の象徴だった名残。かつてヨーロッパでは、白く塗られた装飾(石灰や漆喰)は、手間やコストがかかるため「豊かさの象徴」でした。ファールンレッドで「レンガの家」を模し、さらに白い窓枠で装飾を加えることで、「しっかりした立派な家」に見せるという意味合いもあったのです。
この赤と白の組み合わせが本当に美しく見えるのは、スウェーデンの自然の中に佇むときです。夏の緑、秋の黄金色、冬の雪の白。どの季節でも、赤い外壁と白い窓枠は風景に調和しながら、しっかりと存在感を放ちます。「自然と共にある家」という考え方にぴったりな色合いなのです。この配色は、日本の住まいにも多くのヒントを与えてくれます。完璧な白ではなく、少し柔らかい白を使う、外壁と窓の関係性で印象をつくる、色は装飾ではなく「機能と文化」から選ぶ。ファールンレッドと白の組み合わせは、単なる色の選択ではなく「暮らし方の思想」そのものなのです。
