コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。
北欧諸国の中でも、特に住まいのインテリアに関心が高いことで知られているスウェーデン。今回のコラムでは、スウェーデンのインテリアデザインの歴史の一部を紐解いていきます。
19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデンのインテリアデザインは大きな変化の時代を迎えていました。この時代は「Sekelskifte/セーケルシフテ(世紀転換期)」と呼ばれ、伝統的なスタイルから近代的なデザインへと移り変わる重要な時期でした。
19世紀後半の住宅では、暗く伝統的で歴史のあるスタイルが主流でした。デザインの様式で言うと、ルネサンスやバロック、ロココなど、過去の時代のデザインを取り入れた重厚な家具が好まれ、黒っぽいオークなど濃い色の木材や豪華な装飾が室内を彩っていました。厚手のカーテンや絨毯が使われ、部屋には格式と豊かさが感じられる一方で、全体的に重々しい印象もありました。
しかし、世紀末に近づくにつれて、こうした過剰に装飾するスタイルに対する見直しが始まります。その中で登場したのが「Jugend/ユーゲント」です。ヨーロッパのアール・ヌーヴォーの影響を受けたユーゲントは、花や植物をモチーフにしたり、螺旋やアーチなど自然界の流れるような曲線的なラインを特徴とし、本物の素材を用いて明るく軽やかなデザインを目指しました。
また、同時期には「Nationalromantik/ナショナルロマンティシズム」も発展しました。こちらは世界的な潮流だったユーゲントとは異なり、スウェーデンの伝統や民芸、手工芸に価値を見いだすスタイルです。自然素材を生かした家具や素朴で力強いデザインが特徴で、北欧らしい温かみのある住まいが生まれました。
ユーゲント、ナショナルロマンティシズムといったさまざまなスタイルが共存していた世紀末のスウェーデン。そのため、今では「Sekelskifte/セーケルシフテ」とは特定の様式を指すのではなく、新旧の価値観が交差する時代のインテリア全体を表す言葉としても使われています。こうした多様なスタイルは、その後の1920年代のスウェディッシュ・グレースや30年代以降の機能主義へと受け継がれ、今日の北欧デザインの礎となっていったのです。

スウェーデンにおけるユーゲントの先駆者で芸術家・デザイナーのアルフ・ヴァランデルの自邸「イェルズゴーデン」。
ストックホルム市庁舎の建築家ラグナル・オストベリがデザインし、インテリアデザインは自身と妻で手掛けた。1905年竣工。

世紀末に新しい表現様式として広がったユーゲントスタイル。他のスタイルの要素が同時に取り入れられることもありました。
ユーゲント様式で建てられている王立ドラマ劇場には、古典主義やグスタヴィアン様式の要素も見られます。

世紀の変わり目に建てられたアパートは「Sekelskifte/セーケルシフテ」と呼ばれ人気を誇っています。
建築や空間の特徴として、天井高のある空間、天井や壁との境目の装飾Stuckatur、窓のような意匠の入ったSpegeldörrなどの特徴が見られます。
このアパートは1906年に建てられたもの。
アウグスト・ストリンドベリ(1849-1912)は、19世紀末から20世紀にかけて活躍したスウェーデンを代表する劇作家・小説家です。ノルウェーのイプセンと並び「近代演劇の父」と呼ばれ、人間の心理をリアルかつ過激に描いた作風で知られています。
ストリンドベリが晩年の4年間を過ごしたストックホルムのアパートは、電気が通り、エレベーターやトイレ、セントラルヒーティングも設置された当時最先端を誇るモダニズム建築でした。現在このアパートはミュージアムとして開放されており、一歩足を踏み入れると、そこには世紀末から1900年代初頭にかけてヨーロッパを席巻したインテリア様式「ユーゲント(アール・ヌーヴォー)」の素晴らしい世界が、奇跡的なほど当時のままの姿で広がっています。
ストリンドベリが自ら買い揃えた調度品が見事に調和するこの空間には、彼が最後を迎えたベッド、パリの大聖堂にちなんで「ノートルダム」と呼ばれたキャビネット付きのサイドボードなど、ユーゲントスタイルの家具や調度品が並びます。彼は1909-1910年にかけて約3300 SEK(現在の価値で200000 SEK程=日本円で約340万円)を投じて自ら家具を選び揃えました。彼の死後に詳細に記録された写真と歴史的考察もふまえ、細部までこだわって再現されたテキスタイルや壁紙も見所の一つです。
当時のスウェーデンのユーゲントスタイルには、オーストリアとフランスの双方からの影響が混在していました。このアパートの室内を彩る調度品にもその特徴がよく表れており、ストリンドベリが「赤い目」と呼んで愛したエレガントなランプにはフランスらしい柔らかな曲線美が宿る一方、寝室のグリーンの壁紙にはオーストリアの影響を感じさせる直線的で力強い幾何学模様が美しく映えています。さらに、彼自身が手がけた戯曲の舞台美術を模したというサロンへ進むと、高級な金色の壁紙をベースに、緑のドレープやワインレッドの布がドラマチックな彩りを添えており、ひとつの芸術空間のようです。
細かい部分まで整然と片付けられていた書斎には、彼が亡くなった当時と全く同じ配置で仕事の道具が残されています。文房具も最高のものにこだわり、イギリスの鉄製のペン、フランスのインク、そして南スウェーデンLasseboの手漉きの紙を愛用。オイルランプとキャンドルの光の中、彼のキャリアの最終章である傑作『Stora landsvägen/大街道』がここで生まれました。
向こう2年の家賃を封筒に入れて準備していたというストリンドベリ。几帳面だった彼の暮らしぶりは細部まで忠実に再現されています。100年以上の時を経ても色褪せない世界観と未だ彼の気配が感じられるかのような雰囲気。この美しいミュージアムは、多様な文化を吸収して花開いた北欧インテリアの歴史の一コマと、細部にまで美を追求したひとりの作家の情熱を、今も静かに伝え続けています。
ストリンドベリ・ミュージアム
https://www.strindbergsmuseet.se/

サロンも兼ねたリビングルームでは、友人を招いて夜な夜な「音楽の夕べ」が開催された。
緑のドレープが美しいサロンの壁。テキスタイルの前にはギリシャ神話の英雄「イアーソーン」が飾られている。
寝室に置かれたユーゲントスタイルのランプは彼のお気に入り。誕生日に15,000人のファンがアパートの前に押しかけた際、目印として窓辺に飾ったという逸話が残されている。
愛用した直火式コーヒーメーカー。
サイドボード「ノートルダム」の真鍮の取っ手。ユーゲントスタイルの家具は手仕事の美しさに溢れている。
ユーゲント様式の柄があしらわれたサロンにあるテーブルクロス。
ストリンドベリの書斎。
1693年創業の北欧最古の製紙所Lasseboの紙
「Gul Bilkupan」を愛用していた。
腹部の癌を煩ったストリンドベリが息を引き取ったベッド。
サイドテーブルには聖書が置かれている。