コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。
「これらのトレンドは、インテリア業界だけでなく様々な業界に影響を与えていくと思われます」と語る登壇中のマリアさん。
サステナブル(持続可能性)について考えることは、今や世界的に自然なこととなりました。スウェーデンにおいても依然として人々の関心が高く、北欧最大級のインテリア雑貨フェア「Formex」でも毎回重要なテーマの一つとして、会場内でのセミナーや展示会で大きく紹介されています。
サステナビリティの専門家でジャーナリストのMaria Soxboさんのセミナー「サステナブルトレンド動向2024/2025- 未来をデザインする」Formex HPより
最近のFormexでは毎回サステナビリティにおけるトレンドを探るセミナーを開催されている、サステナビリティの専門家でジャーナリストのMaria Soxboさん。2024年8月のFormexで、トレンドの一つとしてまず挙げられたのが、コスト削減のために海外に拠点を移していた工場を、自国に戻す「リショアリング(生産拠点を自国に戻す)」。その結果、生産コストが高くなる商品に対して、どのような付加価値をつけるのかが大切になってくる「Slow Production」と「7世代先のことを考えて決断する」こと。
そして、「Post-consumer waste」。Tシャツ製造時の残布でバッグを作るなど、アパレルブランドで余った部分から新しい製品を作る提案というのはよく見かけるものですが、そのアイテムを作るために残布を出す必要があるという事実が考えもの。そもそも大切なのはその残布が出ないように、製造過程を最適化するということなのではないか、という問いです。(これは海洋を漂うプラスチックゴミを再利用して何かを作るということとは根本的に異なるものだそうです)
そして、2024年に出現したトレンドの一つである「Underconsumption Core(過少消費コア)」。これは大量消費社会と真逆のコンセプトで、新しいものを極力買わずに、購入したものを最後まで丁寧に使い切る「モノを買わない」トレンドです。(こちらは今後のコラムでもご紹介します)
「リサイクル」「アップサイクル」などいろいろなコンセプトがありますが、大切なのはサーキュラリティ(循環性)で「廃棄する物がそもそも出ないようにする」こと。私たち誰もが、消費者からサーキュレーターになる必要性がある、と彼女は語ります。それこそが、私たちがなるべき未来の消費者なのかもしれません。
マリアさんが所属するIMMAがキュレーションをした2024年8月開催のFormex展示写真。『サステナブルは必要だからというだけではなく、それが想像的で楽しいものであるからこそ未来があるという感覚を持ってほしい』とマリアさんも語っています。
マリアさんによる2025年1月のFormexでのセミナー。ここでも「Cirkulär affärsmodell/サーキュラーエコノミーモデル」として、循環型のビジネスモデルの大切さが示されていました。また「透明性があること」「所有からシェアリングへ」「生物多様性」などさらに様々な視点も必要になってくるとのこと。
北欧最大級のインテリア雑貨フェア「Formex」で行われたサステナビリティの専門家でジャーナリストのマリアさんのセミナーに登場したトレンドキーワードの一つ「Underconsumption Core(過少消費コア)」。これは大量消費社会と真逆のコンセプトで、新しいものを極力買わずに、購入したものを最後まで丁寧に使い切る「モノを買わない」トレンドです。
これはモノを作り出す企業にとっては難しいトレンドなのかもしれませんが、この考え方の延長線上にあるのは「すでにあるものを大切に使う」ということ。実際、修理ができたり、いらなくなったものに次の使い手を見つける、ということにも繋がっています。
日本でも、中古品の売買や、大手ブランドがpre-lovedと称して自社のセカンドハンド品を扱うケースが一般的になりつつありますよね。今回はスウェーデンのブランドの取り組みをいくつかご紹介します。
H&Mのホームページより
市内の一等地に次々と路面店をオープンしたセカンドハンドショップ「Arkivet」では現代の暮らしに合う、ここ2〜3年の間に作られたトレンドの効いた服やアクセサリーを扱っています。お客さんが持ち込んだ服は30日間委託販売され、売れたら販売価格の40〜60%が持ち主に支払われるシステム。ストックホルムとヨーテボリの中心地に合わせて5店舗あり、2023年には100万人以上の人が訪れたのだそう。
Arkivetのホームページより
IKEAは全店舗に「Cirklärbutiken(サーキュラーブティック/循環型ショップ)」を設置。消費者から不要になったIKEA家具を買い取って再販したり、傷がついた家具などを修理して再梱包したものや廃盤品の販売などを通じて、廃棄される家具を減らし、長く使われるような工夫を作り出しています。
西海岸の都市Göteborg発祥のジーンズブランド「Nudie Jeans」では、買った場所に関わらず、Nudie Jeansのアイテムであれば、一生涯無料でリペアを受け付けています。永くアイテムを使って欲しいというブランドの哲学が感じられます。
ストックホルム発のバッグブランド「Sandqvist」では、購入から2年間の修理は無料。その後も有料で修理を受け付けるほか、中古品を持っていくと新品を割引で購入出来るシステムも導入しています。
Sandqvistのホームページより
EUでは、自分が購入したモノの修理を受けられる権利を強化する法律を2024年4月に採択しています。これにより壊れてしまったものをより簡単に直せるようになります。廃棄物を減らし、より持続可能な消費につながる循環性のある社会を目指していきたいですね。
持続可能な社会の実現が求められる中で、私たちの身近な「ゴミ」に対する考え方も変わりつつあります。循環の一部としてゴミを利用できるのなら、ゴミはどれほど価値ある資源となるのでしょうか?
スウェーデンの家庭から出るゴミの3分の1が生物に由来する再生可能な有機性資源です。その中でも生ゴミは実はとても貴重な資源。分別し、処理をすることで発生するバイオガスは燃料として使用することができ、残った物質は堆肥化して重要な栄養素として土壌に戻すことができるのだそう。バイオガスはストックホルム市内を走るバスの15%に燃料として使用されています。
生ゴミからできる堆肥。スウェーデンでは2024年、家庭や事業者から出る生ゴミの分別を義務付ける法律ができました。
もともと私の住んでいるエリアでは、住民は無料で配布される指定の紙袋に生ゴミを入れ、独立したゴミ容器に集めておき、定期的に行政のゴミ収集車がそれを回収にくる、というシステムが採用されています。
自治体から配布される紙袋。シンク下がゴミ分別できる引き出しになっているキッチンが一般的。
法制化を受けて、自宅で生ゴミをコンポストしている家庭は、その旨を自治体に報告することが義務になりました。ちなみに我が家では「Bokashi」という日本由来のコンポストを実践しています。Bokashiはスウェーデンでは馴染みのある言葉で、ガーデニング好きのスウェーデン人の間ではとても人気。油粕や米ぬかなどの有機肥料に土やモミガラなどを混ぜて発酵させて作る肥料を生ゴミに振りかけて、密閉したバケツ内で2週間発酵させるとできあがりです。できたものは夏、野菜作りの土壌をよくするために、野菜やお花を育てる土の中に埋めて使います。またこのぼかす過程で出てくる水は「黄金の水」と呼ばれるほど、植物の成長に良い微生物がたくさん含まれているのだとか。これも大切に保管して水で希釈して使います。
Bokashiの道具一式。できた肥料は野菜やお花を育てる予定の場所に埋めてガーデニングの土づくりをします。捨てる生ゴミから必要な肥料を作り出せて、自分は自然のサイクルの一部ということが感じられる点が素晴らしい。
実際、生ゴミ、プラスチック、紙ゴミ、新聞系、ガラス(色付きと無色)、メタルをリサイクルする習慣がもともと根付いているため、法制化されたとはいえ日常はあまり変わっていませんが、集まる生ゴミの量は増えたそうです。
スウェーデンでは、家庭から出るゴミの99%が材料や栄養素、エネルギーとしてリサイクルされています。個人的には、感覚として「ゴミ=汚くて廃棄するもの」というイメージがスウェーデンではあまりないように思います。
ここでもポイントとなるのは「循環」というキーワード。自分たちが循環の恩恵を受けているということを感じられるということも、大切なことなのかもしれません。