コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第161回
Midsommar(ミッドソンマル)夏至祭のおはなし

夏至祭の飾り

【左】Skansenに立てられるミッドサマーポール【右】花が飾りつけられて出来上がったポールを起こすところ Skansen

スウェーデン各地で夏至祭に立てられる「Midsommarstång /ミッドソンマルストング(ミッドサマーポール)」は、別名「Majstång(マイストング)」とも言われます。
5月1日にヨーロッパの国々で立てられるMaypole(メイポール)と同じ意味を持つものだとよく勘違いされますが、スウェーデンのマイストングは英語の「May(5月)」とは異なり、「葉っぱで飾る」という意味のスウェーデン語「Maja(マイヤ)」が語源となっています。

古いスウェーデンの農家では、ちょうどこの日は1年の農作業の始まりの日とされ、白樺の枝葉を巻きつけたポールを広場に立て五穀豊穣を願ったことが夏至祭の始まりだと言われています。同じころ、学生や若い使用人たちが白樺の枝を持ち、歌を歌いながら物乞いをするという伝統的な季節の巡礼がありました。
この伝統行事と農家のお祭りの2つが混ざり合い、現在のようなミッドサマーのお祭りになったようです。

夏至祭はキリスト教の伝道によって1953年までは聖ヨハネの誕生日6月24日に行われていましたが、現在は宗教とは切り離され、6月19日~26日の間の土曜日がミッドサマーと定められ、夏の訪れを祝うお祭りとなりました。クリスマスと同じく、前日(イブ)の夜にお祝いをするのが慣わしとなっています。

夏至祭のメインアイコンとなっているミッドサマーポール。伝統的なスタイルは20メートルのもみの木を支柱にして、その半分の長さの木をクロスにして支柱に固定し、白樺の葉っぱを巻きつけていきます。
葉っぱだけを飾ったものもあれば、春の草花を飾りつけたものまで、地方によって形や大きさが異なり、それぞれの特徴が今も受け継がれています。
地方によって異なるミッドサマーポールのデザインをご紹介しましょう。

<スウェーデン中部>
(ダーラナ地方)
最も伝統的な十字の両端に大きな花輪(kransar)が吊るされたもの。白樺の葉や花で飾られ、カラフルなリボンが使われることもある。スウェーデンで最も伝統的なスタイル。

<スウェーデン南部>
(スモーランド地方)
輪が一つだけのものや、棒形の単純な形が主流で装飾は控えめ。自然素材を活かした素朴な雰囲気が特徴。

(スコーネ地方)
ポール全体に花や葉を豊富に巻きつけ、豪華に飾られます。色とりどりの花やリボンが使われ、華やかな印象を与える。
南部の温暖な気候が反映され、装飾が豊富で明るい雰囲気が特徴。

<スウェーデン北部>
伝統的にミッドサマーポールはあまり浸透していない地域だったが、現在は地域ごとにポールが立てられている。
北極圏の先住民サーミ人のコミュニティではミッドサマーポールはなく、場所によっては観光客用のポールを立てる場合もある。
ミッドナイトサンが見られるこの地方では、お祭りそのものより自然に感謝し、太陽が沈まない夏を楽しむ気持ちが強い。

ストックホルムにある野外博物館SKANSEN(スカンセン)では、ミッドサマーイヴに民族衣装を着た人たちが20メートルのミッドサマーポールに飾り付けをして広場に立てるという、夏至祭の一連のパフォーマンスを見学することができ、踊りにも参加することができます。

私が今までで一番印象に残っているのは、知り合いのサマーハウスで行われた夏至祭です。
トラックで森に行き、白樺の枝をたくさん採ってきて、メインのポールに巻きつけ、最後に草花を巻きつけたあと、皆でポールの周りを歌いながら踊るという夏至祭の一連の流れは、まるでリンドグレーンの物語の一場面を体験したようでした。

各地の広場でもこのような体験ができるので、地方の小規模な夏至祭を体験するのもおすすめです。

夏至祭の食べ物 今と昔


夏至祭には、次の3つのメニューが欠かせないと言われます。

・「Inlagd sill(インラグドシル)」 酢漬けニシン
・「Färskpotatis (フェシュクポターティス)」 新じゃが
・「Svenska Jordgubbar」(スヴェンスカ・ユードグッバル) スウェーデン産イチゴ

中でも酢漬けニシン「Inlagd sill(インラグドシル)」、通称「sill(シル)」はスウェーデンのお祝いの食卓では欠かせない一品で、特に夏至祭ではこれがないと始まらない!というくらい重要なポジションの食べ物です。

夏至祭が始まった中世では、最後の収穫や屠殺が終わって半年以上も経ったこの時期、農家では食べ物が不足していました。そのため夏至祭の食事といえば、乾燥させた鱈や肉、酢漬けニシン、乾燥ライ麦パンにチーズやバターなど、僅かに残っている保存食で凌いでいたと言います。ですから、夏至祭とはいえご馳走と言うには程遠い質素な食事で、祭りというよりも歌や踊りで人々の交流を深め、コミュニティの結束を図る意味のほうが大きかったようです。

一方、貴族や上流階級の人たちの間では、綺麗に飾り付けたテーブルに肉や魚、スナップス(酒)を並べ、ご馳走を振る舞う夏至祭は、富と権威を誇示するパーティーだったと言えます。もっともそれより以前の貴族階級では、神に生け贄を捧げる儀式をしていたと言われますから、なにより宗教的な意味が強かったのでしょう。

時が流れ、現在はほとんどの人が「酢漬けニシン」「新じゃが」「スウェーデン産イチゴ」で夏至祭を祝いますが、ジャガイモとイチゴは昔からスウェーデンにあったわけではなく、どちらも1700年代になってから栽培されるようになったもの。

新じゃがに関しては、育ちきっていない小さなジャガイモを掘り起こして食べるのはとてつもなく贅沢なことで、第二次世界大戦が終わるまでは一般の人々の口に入るものではなかったそうです。
スウェーデン産のイチゴもまた、夏の短いこの国で栽培される貴重な果実ですが、現在では初夏のこの時期にしか取れない特別なものとして、お祝いの食卓に相応しい食べ物になりました。
一方、ニシンは中世の時代からある食べ物で、海が凍ってしまう冬の間は漁ができず、初夏は初漁で獲れたニシンを酢漬けする時期にあたります。そのため初物の酢漬けニシンが夏至祭の食卓に上がるのは当然のことと言えますが、現在のように夏至祭の定番となったのは、こちらも第二次世界大戦が終わってからなのだそうです。

夏至祭には、少なくなったとはいえ自家製シル(酢漬けニシン)を作って楽しむ人がいますが、シルの瓶詰めや缶詰も数多く販売されているので、異なる種類の味を手頃に楽しむこともできます。

クネッケブロード(乾燥ライ麦パン)にバターを塗って茹でたジャガイモと卵のスライス、シルをのせるのがスウェーデンのオーソドックスな食べ方。茹でてカットするだけのメインディッシュと、イチゴにホイップクリームを添えるだけのシンプルなデザートは、とても合理的でスウェーデンらしいお祝いの仕方だと言われています。

イチゴとメレンゲのサマーケーキ

夏至祭の飲み物 今と昔


一般的には「スナップス」よりも「アクアビット」という名前のほうが知られている北欧のお酒。実は、「アクアビット」は「スナップス」の一種で、キャラウェイやディルなど特別な香草で味付けした蒸留酒のことを指します。アクアビット以外にもフレーバー付きのブランデーや様々なハーブで味付けしたウオッカもスナップスとして飲まれています。

16世紀にヨーロッパ大陸から伝来した薬草を使った蒸留酒「アクア・ヴィタエ(ラテン語で命の水という意味)」、すなわち現在の「アクアビット」は、当初は薬として飲用されていましたが、次第に食卓にも取り入れられ、「スナップス」の文化につながっていきます。
「snaps (スナップス)」とはドイツ語の「schnapps(シュナップス)」から派生した言葉で、「一口で飲み干す酒」という意味ですが、同じお酒でも、飲む場所やシチュエーションによって異なる呼び方があります。

[snaps(スナップス)]
「Helan går(ヘーラン・ゴー)・・・」で始まる、スウェーデン人の誰もが知る乾杯の歌「スナップスヴィーサ」を歌ってからショットグラスに入ったお酒をグッと一口で飲み干す、夏至祭だけでなくクリスマスや祝いの席に相応しいお酒。

[Nubbe(ヌッベ)]
「小さな釘」から「小さな1杯」という意味になり、仲間内で気軽に飲むお酒。

[Sup(スープ)]
その昔、特別な酒杯(skål)からスプーンでスープのように飲んだことが由来になっている言葉で、門出の酒としても使われる。ちなみに「乾杯」を意味する「スコール」は、この特別な酒杯から来た言葉。

お酒の持つ意味や楽しみ方が微妙に異なるところに、お酒との長い歴史を感じますね。

アクアビットが大陸から伝わった後、1600年代にはジャガイモを使った蒸留酒が家庭でも作られるようになります。そして1800年代の工業化と共にアルコールの大量生産が始まると、スナップスは瞬く間に庶民に普及し、現在アクアビットは北欧を代表するお酒として世界で知られる存在となりました。

では、アクアビットの伝来以前の中世スウェーデンの夏至祭では、どのような飲み物を飲んでいたのでしょうか。

スウェーデンではヴァイキング時代(800~1100年頃)以前からハチミツを発酵させて作る「mjöd (ミョード)」というお酒があり、神々への供物・儀式用として使われていました。

北欧神話の神オーディンが女神にミョードを次いでもらっている場面。ミョードは神々の飲み物であった

北欧神話では、詩の才能を与える魔法の酒「詩人の蜂蜜酒(Skaldemjöd)」として登場し、単なる酒ではなく「知恵」「勇気」「繁栄」の象徴でもあったと言います。それゆえ、結婚式や収穫祭、神事などの特別な日に飲まれる貴重で神聖なお酒とされていました。特に夏至祭などの自然を祝う祭りでは太陽、豊穣、再生の象徴としてミョードが飲まれてきたのでしょう。

他の国に比べて北欧は冷涼な気候のため、ぶどうが育ちにくくワインの製造は難しかったことから、自然に手に入る蜂蜜と水を混ぜるだけで自然発酵するミョードは、簡単に作れる酒として重宝されました。

ただミョードは高価なハチミツを使うため、貴族上流社会の贅沢な飲み物でした。当時の農民や庶民の間では、自家製のビールやジュニパー(針葉樹)の実や葉を煮出して香りづけた麦芽酒(enbärsdricka)が主な飲み物で、これは現在も北部地方に伝統として残っています。
ミョードは現在も一部の人たちの間で守り続けられていて、イギリスには現在も多くのミョード醸造所があります。

私自身も一度自家製ミョードを飲んだことがありますが、あまり美味しいという印象がありませんでした。最近のクラフト酒ブームで、アメリカではミョードの専門醸造所が増えているそう。進化して美味しくなったミョードが日本に上陸する日は近いかもしれませんね!

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by Sweden House
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見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイサー)
見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイザー)
奈良県出身。パレットクラブイラストスクール1期生。
デザイン事務所勤務を経てフリーランス・イラストレーターとして仕事を始める。
1995年より通算13年間スウェーデンに在住、2013年に帰国。
帰国後はスウェーデン料理のケータリング事業を始める。
Fika(スウェーデンのコーヒータイム)のワークショップをとおして北欧文化を発信中。
https://www.riekomise.com/
https://www.instagram.com/spisen_jp/
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