コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第144回
自然からの贈り物「ベリー」のおはなし

スウェーデンの人々にとって、長い休暇は、時間に縛られずできるだけ自然の中で過ごし、人間としての感覚を取り戻す大切な機会。自然と共存することを当たり前のように行ってきたのは、その恵みがどれだけ大切なのかを、北欧の人たちが遠い昔から知っていたからでしょう。
今回はスウェーデンの人たちにとって大切な自然からの贈り物「ベリー」についてのおはなしです。

白夜が育てる特別なベリー


日照時間が極端に短い冬が続く北欧の国々では、国内で育つ野菜やフルーツの種類が限られているのは当然のこと。今でこそ世界中から輸入された野菜やフルーツが1年中欠くことなく店頭に並びますが、輸送機関が発達する以前、北欧の人たちはどのようにビタミンを摂取していたのでしょうか。

それは大自然が育てる多種多様なベリーを食べることでした。ベリー類は大切なビタミン源として、太古の昔から北欧の人たちの健康に重要な役割を果たしてきたようです。

北欧では厳しい冬とは正反対に、夏は限りなく太陽の光が降り注ぎます。日光を存分に浴び、豊富なビタミンを含んだ植物たちが育まれるなか、白夜の国でしか育たない黄金色の特別なベリー、「hjortron(ユートロン)」も姿をみせます。

ユートロンは栄養素が豊富で特にビタミンCはオレンジの4倍もあり、抗酸化作用もあるのでアンチエイジングにも効果があるといわれます。別名skogens guld/スコーゲンス・グュルド(森の黄金)と呼ばれるに値する、まさに森に輝く宝石といった存在です。
英語では雲に似た形からクラウドベリーと呼ばれていて、スウェーデン国内でも地方によって呼び名がたくさんあるようです。英語の標記にはベリーとついていますが、実はラズベリーと同じく、桃やプラムなどと同じストーンフルーツの種類に入るそうです。

北極圏を中心に低い湿地帯に生息する、わずか10~15cmの高さの植物であり、収穫が困難で収穫量も限られているため、ベリー類の中では最高級のベリーとされています。それゆえ、ノーベル賞授賞式の晩餐会でも度々使われる特別な食材でもあります。
ユートロンが自生する湿地は蚊が多く、全身をネットで保護して長靴をはき完全防備で臨まなければなりません。低く腰をかがめて手で一つひとつ収穫する作業は、想像以上の労力が必要なのです。
私は以前、義理の姉に誘われ意気揚々とユートロン摘みに付いていき、お値段相応の大変さを経験しました。森の宝石はそう容易く手に入るものではないのです。

スウェーデンを代表するベリー


スウェーデンでは石器時代からベリー類を食べていたと推測されていて、現在もユートロン(クラウドベリー)に限らず国内では数多くの種類のベリーが自生しています。
中でもリンゴンベリーはスウェーデンを代表するベリーであり、日本でもミートボールに添えるジャムとしてご存知の方が多いのではないでしょうか。

リンゴンベリーには安息香酸が含まれていてカビや腐敗を防ぐ作用があることから、中世の時代は保存料として重宝されていたといわれます。
食用以外にも、当時はハーブと同じように薬や染料として使用されていたそうです。

一方、最北の地ラップランドで生活するサーミ人にとって、ベリー類は数少ない食料源であると同時に収入源の一部にもなる、重要な存在であったそうです。
ブルーベリーやリンゴンベリー、ユートロンなど、収穫したベリー類は町で販売し、家庭では樽に入れたトナカイのミルクの中に浸けておくという独自の方法で冬まで保存したそうです。

1870年頃には、北部から南部のスコーネ地方までの鉄道が開通したことでリンゴンベリーの需要が一気に伸び、「リンゴンラッシュ」と呼ばれるブームになりました。ベリーを摘むことは仕事としても普及し、南部の失業した女性たちが移住してきたのだとか。なんとその頃ベリーを摘む仕事は農家の収入の3倍もあったといいます。

そして1903年には1万トン以上のリンゴンベリーが輸出されました。輸出先は主にドイツで、その後も第二次世界大戦までは年間2000トンもの輸出が続いたそうです。

スウェーデンには自然享受権という慣習法があり、ルールに従えさえすれば誰でも森に入ってベリーやきのこを採っても良いという権利が認められています。そのため、十数年前からポーランドやタイなどの外国からベリーやきのこを採りにきて、それを輸出するケースが増えています。収穫したベリーは現在ドイツではなく、スーパーフードとして東アジアに向けて輸出されるようにもなりました。

私の義理の母はベリーを収穫するのが趣味で、多い年には1トンものリンゴンベリーをひとりで採り、親戚や知り合いに分けたり売ったりしていたそうです。一部は我が家にも届き、おかげで毎年新鮮なベリーで作ったジャムを味わうという、贅沢な経験をさせていただきました。

ベリーの種類とベリーを使ったお菓子や食べ物

・Lingon(リンゴン) リンゴンベリー
スウェーデンを代表するベリーで、おそらく最も収穫量が多いのがリンゴンベリーです。スウェーデンではlingon(リンゴン)と呼ばれ、ベリーはつきません。
日本のイケアでも販売されているので既にご存知かと思いますが、ジャムのほか、サフトという濃縮ジュースにも加工されます。お馴染みのミートボールに添えるだけでなく、スウェーデンでは肉料理につきもので、甘酸っぱい味としょっぱいソースとのコンビネーションがお肉の味を引き立ててくれます。
その他にも朝食やサンドイッチに使うパンにも、リンゴンが入っているものがあります。
また、リンゴンの赤い色がクリスマスにぴったりなので、ソフトジンジャークッキーの生地に入れたり、ケーキの飾りに使ったりと、幅広く使われるベリーです。
ベリー類はお酒との相性も良いようで、「狼の手」と呼ばれるリンゴンのカクテルも有名です。和名は「コケモモ」といい、日本でも高地に自生しているようですが、市場には出回っていないようで、スウェーデンやリトアニアの冷凍リンゴンベリーがネットで購入できます。

・Hallon(ハッロン) ラズベリー
国産を含め少し高価ではありますが、日本でもラズベリーは比較的手に入りやすくなりました。スウェーデンでは、ハッロングロットルに代表されるフィーカのお菓子作りに欠かせないベリーとして親しまれています。
特にブルーベリーとラズベリーのミックスジャムは、「クイーンズジャム(drottningsylt)」と呼ばれており、スウェーデンで一番人気のあるジャムではないかと思います。

・Bråbär(ブローベーリ) ワイルドべリー
主にジャムとして楽しまれ、お菓子作りにはかかせないベリー。日本産やアメリカ産のブルーベリーよりも粒が小さく、高さ20cmほどの植物で、森に自生しているため「ワイルドベリー」と呼ばれます。
スウェーデン特有のブルーベリースープ (Blåbärsoppa)は、水分をたっぷり入れて砂糖で煮たブルーベリーに少しとろみをつけたもので、冷たい牛乳を混ぜて飲む、子どもたちの大好きなおやつです。

・Hjortron(ユートロン) クラウドベリー
主にジャムやチャツネにして保存します。ユートロンの最高の楽しみ方は、砂糖と一緒にさっと煮た熱々のジャムをバニラアイスにかけて食べることといわれています。
私のお気に入りは「bryta(ブリュータ)」で、おそらく北部地方特有の食べ方ではないかと思います。薄く焼いたパリパリの乾燥パン「トゥンブロード」を手で細かく砕いて深皿にいれて牛乳を注ぎ、そこにユートロンのジャムを加えてシリアルのように食べます。初めて食べた当時はそんなに高価なものとは知らず、自家製のジャムだったこともあり、たっぷりかけて美味しくいただいてしまいました。
このほか北欧のお土産として日本によく買って帰ったユートロンのお酒を思い出します。「Lakka(ラッカ)」というフィンランド製のリキュールで、炭酸水で割るだけでとても美味しいカクテルが出来上がります。ラッカとはフィンランド語でユートロンのことを表す言葉だそうです。このリキュールは北欧のどの空港でも購入できますので、見つけたらぜひ買ってみてください。

・Krusbär(クルースベーリ) グースベリー
他のベリーと同じように、ジャムやサフトやお菓子作りに使われます。最近はクルースベーリが入ったお酒もあるようです。
昔読んだ童話にクルースベーリが出てきましたが、見たことも食べたこともない私は、ずっとどんな味がするのだろう…と想いを巡らせていた記憶があります。
それから何十年も経ってからスウェーデンに住むようになり、夏休みに訪ねたサマーハウスの庭で見かけたのが、私にとって本物のクルースベーリとの初めての出会いでした。
庭の茂みには、緑色から赤く染まって熟しているものまで、枝がしなるほどいっぱいのクルースベーリが実っていました。籠いっぱいに採ってきたクルースベーリで作ってもらったパイが焼けた時は、童話の中にいるようで、子どもたちと同じように嬉しくなったのを鮮明に覚えています。甘酸っぱいパイの味は、今でも夏になると懐かしくなります。
スイカのようにラインが入った見た目がかわいらしいのですが、日本ではまだあまり出回っていないため、それほど知られていませんね。北海道や長野県ではクルースベーリも育つそうなので、日本の市場にも出回る日がくるのを楽しみにしています。

・Vinbär(ヴィンベーリ) カラント/カシス
日本のスグリとは少し種類が異なるようですが、他のベリーと同じく、ジャムやジュースなどお菓子類に使われます。連なった形が可愛いので、ケーキの飾りやお料理に添えられていることもあります。
vinbär(ヴィンベーリ)は実がぶどうの房のように連なっているところからつけられた名前で、公園などの植え込みにもよく見かけます。そのため、スウェーデンでは子どもたちが遊びの合間に実を摘んで食べているのをよく見かけます。
カラントやカシスはすでに日本でも人気でたくさんの商品が売られていますね。カラントは主に中央ヨーロッパが発祥と言われますが、vartvinvär(ブラックカラント)は北欧原産だといわれています。赤、白、黒と種類があるカラントは、お酒に加工されたものも多く出ています。

その他にも、自生するものや庭で育つものなど、スウェーデンにはベリー類がまだまだたくさんあります。それはまた別の機会にご紹介できればと思います。お楽しみに!

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by Sweden House
人と環境にやさしい住まい「スウェーデンハウス」。高い住宅性能を備えているからこそ叶えられる、快適で豊かな暮らしをご提供しています。

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見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイサー)
見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイザー)
奈良県出身。パレットクラブイラストスクール1期生。
デザイン事務所勤務を経てフリーランス・イラストレーターとして仕事を始める。
1995年より通算13年間スウェーデンに在住、2013年に帰国。
帰国後はスウェーデン料理のケータリング事業を始める。
Fika(スウェーデンのコーヒータイム)のワークショップをとおして北欧文化を発信中。
https://www.riekomise.com/
https://www.instagram.com/spisen_jp/
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