コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第128回
林檎とスウェーデンのひとたちの暮らし

スウェーデンの庭と林檎の木

薔薇と並んで、スウェーデンで庭に植えたい樹木のトップは、なんといっても林檎の木です。
私が訪れたほとんどの家には林檎の木があり、義兄の家の庭には林檎はもちろんのこと、洋梨やプラムの木もありました!スウェーデンでは、果実が育つ庭木を植え、その収穫を楽しみにしている人が多いと感じます。

スウェーデンの人々がこぞって庭に林檎の木を植え始めたのは1800年代頃からといわれ、多くの家庭では、毎日夕食後に庭で収穫した林檎を使ったデザートを食べていたのだそうです。1970年代にダイエットブームが起こり、この習慣は健康に良くないとされるようになると、デザートの回数と共に、林檎の消費量も激減しました。その結果、過剰に実った林檎が破棄されるという新たな問題が発生。そこで、余った林檎を使った「シードル」などのお酒や、林檎を材料にした多くの商品が開発されるようになりました。雪の中で熟成させて作るアイスシードルという珍しい商品も生まれ、マニアの間では話題を呼んでいるようです。

ストックホルムの近郊には、林檎の木がある庭園や、片隅に林檎の木が植えられたグラウンドなどがたくさんあり、林檎の木がスウェーデンの人々にとって身近な存在であることがよくわかります。 オーガニックで有名なローゼンダールカフェもその一つ。お城の庭園だった敷地内にあり、カフェの前には林檎園が広がっています。春は白い花が咲いた林檎の木の下でピクニックができ、秋にはカフェで収穫した林檎を使ったパイやケーキが楽しめます。ストックホルムっ子にはもちろん、観光客にも人気のある場所です。

スウェーデンの人たちには、林檎の木にまつわる思い出がたくさんあるようです。我が家の子どもたちもそれにもれず、放課後を過ごした学童保育で林檎の木によじ登り、もぎ取った林檎を丸かじりした楽しさは良い思い出だとか。
もう20年以上も前のことですが、「今日のおやつはね、自分たちで採った林檎をアップルパイにしたんだよ!」と、喜んで話してくれた子どもたちの嬉しそうな顔は、私にとっても良い思い出になっています。家の庭で採れたフルーツで食後のデザートを作る生活、憧れますね!

ローゼンダールの林檎フェスティバル
https://www.rosendalstradgard.se/appelhelg/

スウェーデンの林檎と歴史

冬には気温が氷点下にまで下がるスウェーデン。厳しい気候の中で育つ林檎は、なんと300種類近くもあるそうです。そしてその多くは、1800年代にドイツやイギリス、デンマークから伝わってきたのだそう。
ちょうど同じ頃、工場や製材所で地下に貯蔵庫をつくるのが流行り、続いて一般の家庭でも地下に貯蔵庫が設けられるようになりました。1年分のじゃがいもや林檎を保存できるようになったのをきっかけに、それまで大きなお屋敷だけで育てられていた林檎の木が、一般の家庭の庭にも植えられるようになったそうです。

林檎の歴史は遠くヴァイキング時代にまで遡ります。
中世の時代には、修道院で栽培された林檎でつくるお酒やジュース、ピューレのようなアップルムースは貴族たちのパーティーでもてはやされました。今では「1日1個の林檎は医者を遠ざける」ということわざまであるほど、健康に良いフルーツの代表として知られていますが、同じ頃庶民の間では、フルーツはお腹を壊す食べ物と捉えられていて、林檎は全く人気がなかったのだとか。

スウェーデンでは8月頃から国産の林檎が出回り、4月ごろまで様々な品種が売り場に並びます。300種類近くある国産の林檎の中で最も古い品種は、17世紀にはあったと言われているGravensteiner(グラーヴェンステイネル)。一番人気があるのがIngrid Marie(イングリッド・マリー)で、その他にはKatja(カチア)、Alis(アリス)、Elise(エリス)などがあります。女性の名前がついた品種が多いのも、スウェーデンの国産林檎の特徴かもしれません。

また、林檎は昔から権威の象徴でもありました。
その代表が、十字架の施された「国家の林檎」と呼ばれる地球儀で、スウェーデンでは5つの王の宝「ガレリア(日本では3種の神器にあたるもの)」の一つとされ、重要な儀式で使用されます。

頭の上に落ちてきた林檎から、ニュートンが重力を発見したのは有名な話。エデンの園では林檎が禁断の果実として描かれたり、スウェーデンだけでなくヨーロッパ全域で、林檎は古くから生活と深い繋がりがあったようですね。

林檎が登場することわざや慣用句
*Ett äpple om dagen håller doktorn borta.
1日1個の林檎は医者を遠ざける
*Äpplen på andra sidan muren är sötast. (塀の向こうの林檎が一番甘い)
隣の芝生は青い
*Äpplet faller inte långt från trädet. (林檎は林檎の木の下に落ちる)
カエルの子はカエル
*Jämföra äpplen och päron. (林檎と梨を比べる)
比べられないものを比べる

林檎のお菓子とデザート

友人や親戚から届く、採れたての林檎が楽しみな秋。
この頃になると、アップルパイ(エッペルパイ)、アップルケーキ(エッペルトータ)、アップルバンズ(エッペルブッレ)など、以前コラムでもご紹介した林檎を使った様々なレシピが、新聞や雑誌、ネットに溢れます。

庭で収穫した林檎は、食べきれない分を地下の貯蔵庫に保存するほか、一部は砂糖で煮たり、乾燥させるなどして長期保存します。
砂糖で煮て作るエッペルムースは、私たちが普段食べ慣れているジャムよりも、どちらかというとピューレに近いもので、主にシリアルに混ぜたり、またお肉のソースとしても使用します。
もう一つの方法は、林檎をスライスしてから乾燥させてアップルチップスにするというもので、そのまま食べたり、細かく砕いてシリアルに混ぜていただきます。
昔は乾燥させた林檎を水で戻してから煮て、片栗粉でとろみを足した「äppelkräm(エッペルクレーム)」も作られていたそうですが、現在は牛乳パックのような容器に入って、そのままボウルに注いでいただける市販品があります。冷たい牛乳をかけて手軽に楽しめるエッペルクレームは子どもたちの大好きなおやつで、最も簡単なデザートでもあります。

その他にはワインで煮詰めたアップルコンポートや、くり抜いた芯の部分にアーモンドペーストを詰めて焼くベイクドアップル、冷たいアイスクリームやホイップクリームを添えるデザートも人気があります。

林檎の品種にはそれぞれ味に特徴があり、適したお菓子やお料理が書かれたクックブックもあります。日本では酸味の強い品種はあまり好まれないためか少ないですが、スウェーデンではかなり酸っぱい品種もあり、それらはシードルなどのお酒に使われることが多いようです。また、林檎は夏の太陽をいっぱい浴び、冷たい夜を越すことで、赤い色がより鮮やかになるそうです。
酸味と甘みのバランスが程よい、真っ赤なスウェーデンの林檎。私はそのままかぶりつくのが一番好きです。

※※* 林檎を使ったお菓子のレシピ ※※*
第78回 Äppelkaka(エッペルカーカ)林檎のケーキ
https://mjuk.swedenhouse.co.jp/recipe/recipe_2009/
第90回 Äppelbulle(エッペルブッレ)アップルバンズ
https://mjuk.swedenhouse.co.jp/recipe/recipe_2109/

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by Sweden House
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見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイサー)
見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイザー)
奈良県出身。パレットクラブイラストスクール1期生。
デザイン事務所勤務を経てフリーランス・イラストレーターとして仕事を始める。
1995年より通算13年間スウェーデンに在住、2013年に帰国。
帰国後はスウェーデン料理のケータリング事業を始める。
Fika(スウェーデンのコーヒータイム)のワークショップをとおして北欧文化を発信中。
https://www.riekomise.com/
https://www.instagram.com/spisen_jp/
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