コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。
春から夏にかけて庭に育つ植物の中で、真っ先に芽を出すのが「ルバーブ」。
スウェーデンでは「Rabarber(ラバルベル)」と呼ばれ、夏になると庭に大きな葉っぱをつけたルバーブが茂っているのをよく目にします。
庭の片隅のルバーブの茂みはスウェーデンの夏の象徴ともいえる存在。
今回はフルーツのような野菜「ルバーブ」のおはなしです。
ルバーブの起源は古代のモンゴルから中国北部といわれ、乾燥させた根の部分を粉にした漢方薬が数千年もの間にわたって用いられてきました。
その後、薬としてのルバーブの効用はヨーロッパにも広まり、特に古代ギリシャやローマで有名になりました。当時、乾燥させたルバーブの根は中国から黒海を渡って輸入されていましたが、700年代にはシルクロードを経てヨーロッパに届き、主にペルシャ人やアラブ人の医師によって使用されていたそうです。
1200年代にアジアを旅したマルコポーロは、モンゴルや中国ではルバーブが至る所に生息していると旅の記録「東方見聞録」に残しています。
数百年後に、ヨーロッパの植物学者たちはマルコポーロの記録をたどりルバーブ探しの旅に出ましたが、「乾燥させた根」の状態でしか見たことがない彼らにとって、植物のルバーブを探し出すのは至難の業でした。それもそのはず、ルバーブは種類が豊富で、薬効のあるものはごく一部なのだそうです。
1600年代には、やっと探し当てたルバーブをブルガリアで栽培したものの、効能がなく、その後も想像以上に困難な道のりを経て、ようやく1753年に本物の薬用ルバーブにたどりついたという長い歴史があります。1700年代スウェーデンの東インド会社が輸入したルバーブの根は、当時の薬局では最も高価で、その価格はサフランやシナモンよりも高かったというのは当然のことですね。
現在流通しているルバーブは、後に食用として改良された品種で、その数は100種類以上もあるのだそうです。ヨーロッパではイギリスが最初にルバーブの栽培を始め、スウェーデンでは1930年前後から食用として使用され始めたといわれています。
食物繊維が豊富で腸内細菌を整えることから、ルバーブの根は太古からお腹の薬として使われていました。当時は解熱作用や、マラリアにも効果があるともいわれていたそうです。
ルバーブは漢方薬として用いられる「大黄(ダイオウ)」の近縁種で、劇的な効果を発揮することから、漢方の世界では「将軍」と呼ばれているそうです。現在、「大黄」は停滞した血の流れを改善する薬として他の生薬にも配合されています。
ルバーブは中国北部からモンゴル、シベリアの南部など気候の厳しい土地で生息していた種ですから、スウェーデンのような寒冷地での栽培には比較的手がかからず、放っておいても生い茂るほどで、花を咲かせる頃には2mの高さにまで成長するものもあるとか。
近年、日本でも色や太さの異なる様々なルバーブを見かけるようになりましたね。個人的に、独特の赤い色が鮮やかなルバーブにどうしても目がいってしまいますが、スウェーデンで最も一般的なのは、赤よりも緑色の印象が強い、イギリス王女の名前がついた比較的古い品種の「Victoria(ヴィクトリア)」です。最近は新種の「Barbra(バルブロ)」が人気で、毒性があるシュウ酸値が低くなるよう改良されているそうです。
傘のような大きな葉っぱは、子どもたちの遊び道具に最適な可愛い形をしていますが、残念ながら葉の部分はシュウ酸の含有量が高く、腎臓に負担がかかるため食用には向かず、多くの場合、カットされた茎の部分だけが売り場に並んでいます。
また、イギリスのヨークシャー地方では真っ暗な煉瓦の建物内で、ろうそくの灯りだけで育てられる「Forced Rhbarb(フォースド・ルバーブ)」というものがあり、イギリスではこのルバーブが主流のようです。この珍しい栽培方法によって成長のスピードが早くなり、ピンク色で酸味が少なくマイルドなルバーブが育ち、そのうえ収穫の回数も増えるそうです。
気になって調べてみたところ、スウェーデンにも「Glasrabarber (グラースラバルベル)」 と呼ばれ、外に植えたルバーブの葉が出始めたらバケツで覆って光を遮る方法がありました!
フォースドルバーブは、19世紀後半、ロンドンのコベントガーデンのクリスマス市場で売られ、その後、特別列車でパリにまで運ばれたといいます。本来ルバーブは野菜ですが、当時のパリやロンドンでは、クリスマスからイースターまでの間の貴重なフルーツとして大変人気があったようです。
スウェーデンでは相変わらず人気の高いルバーブですが、イギリスでは第二次世界大戦後エキゾチックなフルーツが世界各国から輸入されるようになったのをきっかけに、次第に人気が 落ち着いたそうです。
ヨークシャー地方のフォースドルバーブ
https://youtu.be/tN6uW8g0pLA?si=0uY5jeCwE1oFxUdg
スウェーデンではライラックの花が咲く頃がルバーブの旬といわれ、4月下旬から8月初め頃まで収穫できます。
当然のことではありますが、何といっても旬のルバーブが一番!皮を剥かなくてもよいほど繊維が柔らかく、渋みや酸味も強くないので、採れたてならそのままお砂糖をまぶしてかぶりつくと、旬の味わいが口いっぱいに広がります。
お馴染みの「ルバーブパイ」といったお菓子やケーキのほか、ジャムやコンポートにして保存したり、また酸味を料理に活かすなど、幅広く使われます。
例えば、ルバーブで作ったチャツネは、油の乗った魚料理にピッタリ!また、鮮やかなルバーブはサラダに入れるとアクセントとして映えるだけでなく、爽やかな酸味が味に変化を加えてくれます。ほかにも、お酢と砂糖でピクルスにしたルバーブを、グリルしたお肉に添えていただくのもよいですね。デンマークのBornholm島にはスモークしたイワシをルバーブのコンポートと一緒に食べる伝統料理があるそうです。
ルバーブと一番相性の良いハーブはローズマリーだといわれ、チャツネを作る際にローズマリーを少し加えることで、お料理の味がぐんと引き立つそうです。ルバーブを使ったサフトやカクテルなどドリンクのアクセントにも、ローズマリーやミントが使われます。
カルダモンはスウェーデンではお馴染みのスパイスで、ほとんどの菓子パン類に使われていますが、ルバーブとの相性も良く、コンポートやチャツネに入れるレシピもよく見られます。そのほか、ジンジャーやシナモンも相性が良いとされています。
ルバーブと相性のよいフルーツといえば、やはり酸味のあるイチゴとラズベリー。
一般的に、ルバーブのジャムはイチゴと一緒に煮て作ります。ラズベリーもイチゴも、赤い色がルバーブの赤と融合し、より赤く鮮やかに美味しく仕上がるようです。
ルバーブは、ビーツと同じく国産野菜としてノーベル賞受賞晩餐会のメニューにも度々登場する食材です。
季節は限定されるものの、日本でも一部のスーパーや通販で買えるようになってきたルバーブ。加えるスパイスやハーブなどによって、お菓子作りや料理のバリエーションが広がる素材なので、色々と試してみたいですね!