第62回
暮らしに浸透するfika(フィーカ)の小道具
スウェーデンではコーヒーを飲みながら人と繋がる「fika(フィーカ)」という習慣が暮らしに根付いています。
コーヒーがヨーロッパに伝わってきた1800年代から、スウェーデンで貴族や上流階級の人たちがコーヒーをたしなむようになりました。1900年代に入ってもコーヒーはまだまだ一部の限られた人だけの楽しみで、家に人を招いた時にはコーヒーそのものよりも、コーヒーカップやテーブルクロスなど、テーブルの上をアレンジすることのほうが大切だったとか。高価な食器や綺麗に編まれたレースのテーブルクロスなどで経済力やセンスが問われたといいますから、ちょっと固苦しい見栄っ張りなコーヒータイムだったようです。
その後、コーヒーは一般庶民にも手の届く物となり、甘いお菓子やケーキを食べながら雑談し、仲を深める「フィーカ」へと変化してスウェーデン人の生活に深く浸透しました。
フィーカが急速に広まった1950年代には、コーヒーカップやソーサーを始め、フィーカで使う日常使いの食器類が大量に生産されるようになりました。当時は「Gustavsberg(グスタフスベリ)」や「Rörstrand(ロールストランド)」だけでなく、スウェーデン国内のいくつもの窯が稼働した陶磁器の最盛期でもあったのです。
マグカップでコーヒーを飲むのが主流になった今でも、蚤の市ではこの時期のビンテージ食器は根強い人気があり、買い求めるファンが後を絶ちません。写真:孔雀模様のTV koppen(TVコップ)/arabia
グスタフスベリの作家 Stig Lindberg(スティグ・リンドベリ)
200年近い歴史をもつ、スウェーデンでも老舗の陶磁器メーカー「グスタフスベリ株式会社」からは、いくつもの名作が生まれました。中でもミッドセンチュリーと呼ばれる1950年代に活躍したStig Lindberg(スティグ・リンドベリ)の作品は、近年になり再び人気が沸騰し、復刻版も生産されています。
王立美術大学在学中の弱冠20歳だったリンドベリは、インターンを申し入れたグスタフスベリから「業績が優れず、受け入れられない」と言われたのに対し、自信ありげに「僕を雇ってくれたら、この会社を復活させるよ」と答えたとか。その後グスタフスベリで働くようになった彼は数々のヒット作品を生み出して、見事「有言実行」を果たし、スウェーデンを代表するデザイナーのひとりとして、世界中に広く知られるようになりました。
リンドベリの代表的な作品である、葉っぱの模様でおなじみの「Berså(ベルサ)」や、ブルーと赤のドット「Adam & Ave(アダムとイヴ)」など、それまでになかった斬新なデザインは瞬く間にスウェーデン人の心を掴み、フィーカの習慣と共に深く庶民の生活に溶け込んでいきました。
また、彼は陶器の世界だけでなく、TVなどの工業デザインやテキスタイル、絵本のイラストレーションも手がけ、ミッドセンチュリー・デザインで偉大な業績を残しました。
実はリンドベリと日本との繋がりは古く、1959年から16年間、西武百貨店ではリンドベリがデザインした包装紙が使用されていました。近年では、2017年にリンドべリの生誕100周年を記念して、当時のデザインが復刻されました。
写真:蝶ネクタイがトレードマークだった「スティグ・リンドベリ」
グスタフスベリの作家 リサ・ラーソン
「グスタフスベリ株式会社」には、日本でも人気の高い作家「Lisa Lasson(リサ・ラーソン)」がいます。
彼女が作り出すふっくらした独特のシルエットの「ライオン」や「ネコ」は日本でもお馴染みですね。
ファッションイラストレーターを志してデザイン学校に入ったリサは、鋭い観察力と表現力が陶芸に向いていると学長に勧められ、その道に進むことになりました。卒業後1954年に入社したグスタフスベリで、オブジェを制作するよう彼女に勧めたのは、上司だったスティグ・リンドベリだと言います。
スウェーデンでは、ミニ動物シリーズを始め、発売当時は賛否両論だったABC少女、当時の財務大臣を形どった貯金箱など、ユーモアに富んだフォルムと独自のセンスが幅広い世代に愛されています。
特に赤い帽子のトムテやルシアのキャンドルスタンドは、クリスマスシーズンにはどこの家庭でもみかける人気商品となっています。
1990年代に日本で巻き起った「リサ・ラーソンブーム」は、年を追うごとに盛り上がり、今では輸出の大半は日本向けだと聞くと頷けますね。
女性が社会に進出し始めた1960年代のスウェーデンで、家事と育児を夫婦でシェアしながら仕事を続けてきたリサ・ラーソン。87歳の現在も彼女は毎朝、「今日もまた好きな陶芸ができる!」と幸せな気持ちになるそうですから、まだまだイマジネーションは尽きないようです。そんな彼女のライフスタイルに魅せられるファンも少なくはないでしょう。
写真:リサ・ラーソンとリンドベリ
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