コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第147回
Potatis(ポターティス) ジャガイモのおはなし

現在スウェーデンで主食とされているジャガイモは、調べてみると苦難の歴史を経てヨーロッパに根付いたのだと知り、感慨深い気持ちになりました。
今回は、ヤンソン氏の誘惑、ミートボールに添えるマッシュポテト、ミッドサマーに食べる新ジャガなど、スウェーデン料理とは切り離せない深い関係の「ジャガイモ」についてお話ししたいと思います。

ジャガイモの歴史1


ジャガイモのルーツは南アメリカのインカ帝国(現在のペルー)で、アンデス山脈に住む原住民が1万年も前から主食として食べていたといわれます。
ヨーロッパでは1539年にアメリカ大陸に渡ったスペイン人が持ち帰ったのがはじまりですが、ヨーロッパの人たちに受け入れられるまでには随分時間がかかったようです。
スウェーデンには1655年にオランダ経由で持ち込まれ、ウプサラの植物園で栽培されたのがはじまり。当時そのジャガイモは「ペルーの夜の宝物」と名付けられ、なんとジャガイモの根菜の部分ではなく、地上に咲く花が観賞用として好まれていたといいます。
ルイ16世時代のフランスでも根菜のジャガイモは食べず、花を愛でたという記録が残っています。

フランスやドイツでは、土の中にできる黒く汚れた根っこであるジャガイモは美味しそうには見えず敬遠されたそう。フランスでは毒があるといわれ、ドイツでも「悪魔の薬草」と嫌われていたそうです。それどころか政府からは、栽培を禁止する令まで出された時期があったのだとか。

その後、1700年代にヨーロッパを襲った作物の不作で民は飢饉に陥り、食料としてのジャガイモを栽培することになるのですが、政府が農家に栽培を強制しなければいけないほど、民衆に受け入れられるのが容易ではなかったそうです。
それでも2回も襲った飢饉で、ヨーロッパの人たちは仕方なくジャガイモを食べるようになり、皮肉なことに、人々は毛嫌いしていたジャガイモに命を救われることとなりました。

ジャガイモの歴史2

1655年にスウェーデンに伝わった最初のジャガイモは花を観賞するための植物で、「ペルーの夜の宝物」と名付けられました。
食用としてのジャガイモが栽培されるのは、1700年代になってからのことで、英国から伝わったといわれる種類のジャガイモがスウェーデン 西部のAlingsåsという町で栽培されるようになります。
ジャガイモは、元々スペイン語のpatata が英語のpotatoになり、それが変化してスウェーデンではpotatis (ポターティス)と呼ばれていますが、当時は「jordpäron(大地の梨)」とも呼ばれていました。

さて、この「大地の梨」、スウェーデン国民にはすぐに受け入れられたのでしょうか・・・
実はフランスやドイツと同様に、スウェーデンでも一般に受け入れられるまではそれから50年以上の年月がかかっています。なんと最初にスウェーデンに伝わってきてから、100年も経ってようやく食材として受け入れられるようになるのです。
ヨーロッパの他の国と同じくスウェーデンでも小麦が不作に陥った時期があり、政府が小麦で蒸留酒をつくることを禁止しました。それがきっかけでジャガイモを使ってお酒を作るようになり、瞬く間にジャガイモの栽培が盛んになったそうです。これはウォッカを好む国民ならではの面白いエピソードですね。
そして次第にジャガイモは食材としても受け入れられるようになり、今では主食にまで上り詰めました。

一方、貧しかったアイルランドでは他のヨーロッパの国々に比べ、いち早く主食として受け入れられたそうです。ジャガイモを食べて健康になったアイルランドの国民は1840年代には人口が800万人に増え、ヨーロッパで一番人口密度の高い国となりました。
ところが1845年にジャガイモの疫病が流行して全く収穫できず、5年のうちに150万人が命を落としたそうです。疫病はスウェーデンにも渡り、ジャガイモの収穫量が減少しました。スウェーデンではアイルランドほどの被害はなかったといいますが、当時のジャガイモは人の命を左右するほど重要な食糧だったのですね。

炭水化物が敬遠されがちな現在ですが、ジャガイモには意外に多くの栄養素が含まれています。
中くらいの大きさのジャガイモひとつには1日に必要なビタミンCの半分、ビタミンB6、ナイアシン、カリウム、マグネシウム、鉄が含まれています。ジャガイモに含まれないカルシウムとビタミンAとDは牛乳を摂取することで補うことができるため、当時の人たちは少ない食品でもバランスが取れていたようです。

ジャガイモは元々乾燥した土地でも栽培できるうえ、ひ弱な寒冷地や森の中でさえ育つことからスウェーデンやアイルランドでも無理なく栽培できたというのも、主要な食材として北ヨーロッパに根付いた理由でもありますね。

ジャガイモの活用

現在ジャガイモのレシピは世界中に溢れていますが、人類が最初に作ったジャガイモ料理はどんなものだったのでしょうか?

残念ながら2000年前のインカ帝国で作られていた料理がどのようなものだったのかはわかりませんでしたが、ヨーロッパに残っている一番古いレシピとして、「皮のついたままステーキしたジャガイモ」が、1700年中期のクックブックに掲載されています。
1800年代になってからは茹でたり皮を剥いたジャガイモのレシピも登場して、次第にクリーミーな食感のものが好まれていった様子がわかります。おなじみのマッシュポテトはこの頃から作られ、最初はジャムや砂糖を添えたデザートとして食べられていたそうです。
またポテトから作るスターチ potatismjöl(片栗粉)は幅広く料理に活用されました。第二次世界大戦下において飢餓に苦しむ人々には、厳しい気候条件、寒冷地でも栽培ができるジャガイモは大切な食糧として重宝されました。パンの代替品として、少量の小麦粉にジャガイモや片栗粉を混ぜて焼いていたといわれます。現在も、お菓子のレシピに片栗粉を使うものが残っています。

ジャガイモは食用以外にも、昔は薬として使用されていました。抗炎症作用や鎮静作用があり、治癒過程を早めるために傷に塗布されていたそうです。

そして今後も注目されるジャガイモ。1995年には、スペースシャトル「コロンビア号」にジャガイモの種が持ち込まれ、宇宙で栽培された最初の野菜となりました。2015年には他の惑星で栽培が可能となるよう国際宇宙ステーションISSで研究が始まったそうです。

栽培に必要な水が他の植物よりも少なく、二酸化炭素の排出量が少ないという点でも、未来につながる食材となっていくでしょう。

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by Sweden House
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見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイサー)
見瀬理恵子(イラストレーター&フードアドバイザー)
奈良県出身。パレットクラブイラストスクール1期生。
デザイン事務所勤務を経てフリーランス・イラストレーターとして仕事を始める。
1995年より通算13年間スウェーデンに在住、2013年に帰国。
帰国後はスウェーデン料理のケータリング事業を始める。
Fika(スウェーデンのコーヒータイム)のワークショップをとおして北欧文化を発信中。
https://www.riekomise.com/
https://www.instagram.com/spisen_jp/
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