コラム from Sweden
北欧の暮らし
ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

「コロニーロット」は、日本でいう市民農園や、小さな家庭菜園付きの別荘のような存在です。都市や郊外の緑地に設けられたこの小さな楽園では、人々が春から秋にかけて野菜や花を育てたり、自然の中で静かな時間を楽しんだりしています。スウェーデンならではの暮らしの価値観が色濃く反映された空間です。
多くの区画には、かわいらしい木造の小屋が建てられており、設備はごくシンプル。電気や水道は最低限、テレビやWi-Fiもありません。あえて「何もない時間」を過ごすことに、スウェーデン人は大きな価値を見出しているのです。オーガニック志向が強く、自然に配慮した栽培方法が推奨されています。野菜や花に加え、ミツバチを飼育する利用者も見られます。こうした営みの中には、自然との共生を大切にするスウェーデン人の姿勢が感じられます。
コロニーロットは自治体やコロニー協会によって運営され、スウェーデンに住む人であれば誰でも申し込みが可能です。しかし人気のある地域では、何十年も待たなければならないこともあります。それは、都市部では庭付きの住宅が少なく、自然の中で過ごせる場所が貴重だからです。
植物を育てる喜びに加え、家族や友人とフィーカやバーベキューを楽しめるのも魅力のひとつ。サマーハウスよりも経済的で、「手の届くセカンドハウス」として多くの人に愛されています。
また、利用者同士が協力し合い、年に数回の共同作業やイベントを行うなど、コロニーロットは小さなコミュニティとしての役割も果たしています。畑や庭としてだけでなく、自然と共に生きる「もうひとつの暮らしの場」として、スウェーデンの人々に大切にされているのです。
コロニーロットの景色
寝泊まりできるほどの小屋がある
コロニーロットも
サマーハウス代わりになるコロニーロット

エリクスダルスルンデンは、ストックホルムのソーデルマルム南部に位置し、湖を見下ろす高台の斜面に広がっています。2026年に設立から120周年を迎える、歴史あるコロニーロットのひとつです。このコロニーロットの誕生の背景には、すでにコペンハーゲンで行われていた「労働者階級のための市民菜園」の取り組みがありました。20世紀初頭には、ストックホルムの各地にも次々と同様の菜園が設けられ、経済的に厳しい状況にある人々や、狭い住環境で暮らす人々に対して、新鮮な空気の中で野菜づくりを楽しみ、心身を休めるための場が提供されるようになったのです。現在、エリクスダルスルンデンには約140の区画があり、ストックホルム中心部にあるコロニーロットの中では最大規模を誇ります。

エリザベットさんのガーデン区画
このエリアで20年以上ガーデニングを楽しんでいるエリザベットさんにお話を聞くと、「遠くのサマーハウスよりも、歩いて通えるコロニーロットの方が今の暮らしに合っている」と話してくれました。「季節ごとに咲く花の変化を見るのが楽しみなの」というエリザベットさんは、どの植物をいつどこに植えたのかをガーデニングプランに書き留めて計画的に手入れをしながら、訪れる人々を楽しませています。
なお、コロニーロットは美しく保つことが所有者の義務とされています。もし手入れが行き届かない場合には、区画の権利を手放さなければならないこともあるそうです。そのため、荒れた区画はなく、季節ごとに咲き誇る色とりどりの花々が訪れる人の目を楽しませています。現在では、観光客にも静かな人気スポットとして知られるようになりました。

小屋の中はお気に入りのインテリアで

ロングホルメン・ガーデンは、ストックホルムのソーデルマルム西部にあるロングホルメン島に位置しています。この島には、かつて刑務所として使われていた建物があり、現在は観光客に人気のホテルとして利用されています。

【左】元刑務所であったロングホルメンのホテル
【右】元刑務所の監房で使われていた小さな庭
このコロニーロットの歴史は古く、1837年までさかのぼります。当時、ここで作物を育てることができたのは刑務所の職員たちだけで、自家用のジャガイモなどを栽培し、生活の足しにしていました。刑務所は1975年に閉鎖され、その後1983年にコロニーロット協会が設立されました。
園内には、岩場が多い場所や平らな土地など、さまざまな地形の区画がありますが、それぞれの所有者が思い思いに栽培を楽しんでいます。このガーデンでは長年にわたり、自然に配慮した取り組みが続けられており、たとえば化学肥料や合成農薬を使わないこと、すべての区画にコンポストを設置すること、湖の水を使って水やりを行うことなどがルールとして定められています。こうした環境への配慮が評価され、2018年以降は「環境ゴールド認証」も受けています。
私の仕事仲間のピアさんがこのガーデンの一画を所有しており、天気の良い日にはよく足を運んでいます。彼女は1997年に他の人との共同利用から始め、2007年にコロニーロット区画を手に入れて以来、20年近くこの場所を大切に育ててきました。小屋は自分たちの手で建てたもので、建物の色は「景色に馴染む赤・緑・黄色のいずれか」と決められている中で、自然に溶け込むように緑色を選びました。元ガーデナーだったご主人が設計と栽培を担当し、ふたりで協力しながら、美しいガーデンをつくり上げてきました。コロニーロットはピアさんの自宅から歩いて数分の距離にあり、夏のあいだはほぼ毎日、ガーデンでの時間を楽しんでいます。

コロニーロットライフを楽しむピアさん