コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第141回
スウェーデンの民族衣装

夏至の頃にスウェーデンを旅したことがある方は、美しい民族衣装を身に纏った人々を見かけたことがあるかもしれません。スウェーデンには北から南まで、その地域ならではの様々な民族衣装があります。
スウェーデンでは、何百年も前から民族衣装の伝統が受け継がれている地域もありますが、1900年代に入って古い写真や記録などからそのエリアのbygdedräkter(集落の衣装)が決められ、それが民族衣装として定着していったケースもあるのだそうです。
 

民族衣装がどれほど暮らしに根付いていたかは地域差があり、民族衣装の文化が色濃く残っている地域には地理的な要素やその場所の経済状態などが影響していたと言われています。例えばダーラナ地方の人々は貧しかったので、昔は一家の女手が衣装を作り、子どもや孫は大切にそれを受け継いでいったということ。集落には何人も作り手がいて、手仕事が残る土壌が自然に出来ていったのですね。

日曜礼拝で民族衣装を身につける教区委員。

さて、民族衣装といってもたくさんの種類があります。一般的には、エプロン、スカート、ベスト、シャツ、ジャケット、帽子、ポシェットなどから構成され、仕事用、ハレ・ケの日などTPOに応じたバリエーションがあるほか、季節(夏・冬など)によって違うものもあります。基本的にその地域で手に入りやすい素材で作られていて、未婚・既婚によって身につけるべきアイテムが変わる場合もあります。民族衣装を見ると出身地や社会的なステイタスが一目で分かるのです。
 

通常、自分に縁のある地域の民族衣装を身につけます。お嫁に行く際は嫁ぎ先の民族衣装を作りますが、結婚した後も家族から受け継いだ自分の故郷の民族衣装を大切に持ち続けているという方もいらっしゃいます。
今では民族衣装は「ハレの日の正装」という認識なのだそう。役割や社会的な意味は当時とは違っても、昔と変わらないのは民族衣装への愛情。民族衣装には人々の熱い想いが込められているのです。
ストックホルムのNordiska museet(北方民族博物館)のデジタルミュージアムでは、民族衣装や衣装のパーツ、昔の写真などがたくさん閲覧できます。美しい色使いや刺繍など、繊細な手仕事に思わず魅了されてしまいます。
https://digitaltmuseum.se/search/?q=folkdr%C3%A4kt&aq=descname?:%22Dr%C3%A4kt%22&o=0&n=156

ダーラナ地方の民族衣装

衣装研究者や作り手など、さまざまな形で民族衣装と関わる強い女性たちに出会いました。

スウェーデンには、なんと840種類もの民族衣装(女性用550種、男性用290種)が存在しているのだそうです。古くから豊かな民族衣装文化の残る場所には、ダーラナ地方、南スウェーデンのスコーネ地方、セーデルマンランド地方などが挙げられます。
実は私は、ダーラナ地方のレクサンドに6ヶ月ほど住んでいたことがあります。写真の学校に通っていた在住2年目に、「ダーラナの民族衣装と女性達」をテーマにドキュメンタリー写真を撮影していました。

ここレクサンドは本当にスウェーデンで一番深い(時に深すぎるほどの)文化があると言っても過言ではない場所で、特に北ダーラナにあたるシリヤン湖周辺の村々では、美しい民族衣装が他にはない形で暮らしや人々の気持ちと深く結びついています。
 


どうしてこれほどまでに豊かな民族衣装文化が育まれたのかというと、1820年代にほぼスウェーデン全土で実施された区画整備が、ダーラナ地方には適用されなかったため、集落が分断されず、古くからあるコミュニティがそのまま残されたことが理由の一つに挙げられるのだそうです。

そして、この地は昔から多く人が住むエリアでもあり、農業だけでは生活が苦しかったことから、早くから色々な副業が行われたのだそう。ダーラナ出身の木工職人や煉瓦職人などが、手仕事関連の仕事をするためにストックホルムに出稼ぎに行ったり、また手の込んだ手工芸品をマーケットなどで販売する女性もいて、一種の名物となったのだそうです。人々は民族衣装を身につけ故郷に想いを馳せるのと同時に、労働力として高い評価を得ていたダーラナ出身であることも示しました。
 

それに合わせて洗礼式や結婚式、お葬式など人生の節目で民族衣装を着る習慣も普通に残されています。

レクサンド教会で行われた昔の結婚式を再現するイベント。花嫁はティアラやパール、花などで美しく着飾ります。

今となっては、昔のような意味合いで日常的に民族衣装を着ている方はとても少ないでしょう。ですが、ダーラナではいまだに「民族衣装カレンダー」という「その日に着るべきエプロンや帽子などが書かれている教会の暦」が存在しています。

画家David Tägtströmが1978年に描いたもの。

そして、そのような伝統的なエリアでは、いわゆる「民族衣装ポリス」と呼ばれる存在の住人がいらっしゃることも。

「このセットの時にこのスカーフを合わせてはダメよ」「スカートの丈が違うんじゃない?(丈の長さはジャガイモ畑の境界線くらい重要だった(!)そう)」など時に厳しくも愛情たっぷりに彼女たちからアドバイスを頂くこともあるのだとか。日本の着物を想像していただければ分かりやすいかもしれませんね。
これはもちろん、民族衣装の伝統を守ろうという民族衣装への深い愛情や想いの現れですね。

そして、毎年6月下旬に開催される夏至祭は、そんなダーラナ地方の民族衣装を一度に見られる素晴らしいイベントでもあるのです。

ダーラナ地方の夏至祭

スウェーデンの6月は、夏の暑さも本格的になり、昼間の長さがどんどん長くなっていきます。ルピナスの花が咲きほこり、緑も蒼くキラキラとしていて、夜は白夜の光の美しさがずっと続く。そんな夢のような景色と時間を感じることが出来るのが夏のダーラナ地方です。
旅をするなら、民族衣装で着飾った地元っ子達に出会える夏至祭の頃もおすすめです。

レクサンドで開催される夏至祭は、スウェーデンで一番大きなメイポールの周りを数千人の人々が踊るイベントとして特に有名です。これぞ夏至祭という安定感があり、レクサンド周辺にお住まいの方々とその友人や親戚、そして世界中からツーリストが集まります。参加者数は2~3万人。

夏至は一年に一日しかありませんが、ここダーラナ地方ではどの村にも独自の夏至祭があり、それぞれ時期をずらして開催されるので、暦上の夏至のある週末を皮切りに、様々な集落で1ヶ月ほどお祝いが続きます。そのためうまく計画すれば、いろいろな夏至祭を見ることが出来るのです。
ミッドサマーのお祝い情報は、観光局「Visit Dalarna」のサイト上に集約されますので、旅行者にはとってはとても便利です。
https://www.visitdalarna.se/evenemang/midsommarfiranden
 

一部の地域では、夏は集落を離れて牛たちとFäbod(フェーボード)と言われる高原にある小屋に移動し、そこで牛の遊牧をしながら夏を過ごしていたことから、夏至よりも後の時期にKomidsommar(Ko:牛, Midsommar:夏至祭)、と呼ばれるお祝いをする習慣があったのだそう。ダーラフローダではKomidsommarとして、毎年7月第二週の週末に行われます。

シリヤン湖西側のVästanvikの夏至祭。

7月中旬の盛夏の時期、ドライブ中にたまたま見つけたダーラナ地方西エリアにあるMockfjärd(モックフィアード)の夏至祭。

Movie: Akechi Naoko

それぞれの夏至祭前日、地元の方々がポールを華やかに飾りつけします。集落の掲示板のほか、「Visit Dalanra」にも飾りつけする日が掲載される場合があるので、村の人たちとの一体感を味わいたい方にはおすすめです。

こちらは、レクサンドのなかでも古くからあるエリアÅkeröでの夏至祭数日前の夜の写真。一年前の飾りをとって、新緑の白樺やお花などで飾ります。

夏至祭は、集落のなかにあるHembygdsgårdenという民芸館のような場所で行われる場合も多く、昔ながらの古い建物が並び、その土地の文化や手仕事の展示が見られる場合もあります。奏でられる民族音楽にも地域性があるのだそう。
6月下旬〜7月、ぜひ色々な夏至祭を回り、ダーラナ流の夏を満喫してみてください。

レクサンドの夏至祭。会場を目指す音楽隊。

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by Sweden House
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明知直子
千葉大学教育学部卒業後、IDÈEにて家具販売とインテリアコーディネートに携わる。2007年にスウェーデン北極圏の街キルナへ留学。その後ストックホルムで写真を学び、現在はストックホルム郊外の群島アーキペラゴ在住。書籍や雑誌記事の執筆·撮影、日本とスウェーデンに関わるプロジェクトや企画のコーディネートを生業とする。
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