コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第88回
子どもファーストの国スウェーデン 「子どもの権利条約」のこと

今回ご紹介するのは「子どもの権利条約」についてです。息子の通う保育園で、こんなお知らせがありました。「2020年、子どもの権利条約が法定化され学習指導要領にも盛り込まれたので、毎日の活動の中でこんなことをしていきます」。具体的にはこんな活動でした。

保育園の先生は、子ども達一人一人に「何を学んでる時一番楽しい?」「どんなことが出来るようになりたい?」と質問します。すると子どもは「木に高く登れるようになりたい!」「動物を育ててみたい」「本が読めるようになりたいなあ」「サッカーが上手くなりたい!」など思いのままに答えます。先生はそれらの答えを一つづつ書き留め、子ども達に体験させます。
すると、子どもは「自分の願いは聞き入れられる」ことと同時に、興味や出来ることは一人一人違うことなどの多様性も自然に学んでいくのだそうです。

この「子どもの権利条約」とは1989年に国連で採択された国際条約で、現在アメリカを除くすべての国で締結されています。子どもの権利は全部で50条以上あり、その中でも以下の4つが基本理念と捉えられています。
・すべての子ども達に同じ権利がある(2条)
・何かを決める際には、子ども達にとって何が一番かを考える(3条)
・すべての子どもは命を守られ、健やかに育つ権利がある(6条)
・子どもは自分の意見を表わすことが出来、それを考慮される権利がある(12条)
※原文の条文は長いため、こちら4文は「Rädda barnen(Save the children Sweden)」の子ども用の教材を訳しています。
https://www.raddabarnen.se/globalassets/dokument/rad–kunskap/skolmaterial/malarbok_radda_barnen_barnkonventionen.pdf

他の活動では、「親に名前の由来を聞いて発表する」(7条/名前を持つ権利がある)や、「お友だちの国についてみんなで学ぼう」(8条/国籍を持つ権利がある)では子ども達の国籍について学び給食でその国のご飯を食べたり、国旗を描いたりします。「家族について話そう」(5条/家族を持つ権利がある)では保護者について話したりポートレートを描いて展覧会をしたりしました。

権利について具体的に教えるのではなく、子ども達は経験を通して楽しく学んでいきます。子どもに権利があることさえきちんと考えたことのなかった私は、この取り組みにとても驚きました。

大人が勝手に決めたルールに縛られない女の子を描いた、世界中で人気の児童文学「長くつしたのピッピ」の作者アストリッド・リンドグレンは子どもの人権を守るオピニオンリーダーでもありました。1978年、ドイツ出版協会の平和賞を受賞したリンドグレンは、主催者の反対を押切り、授賞式で子どもへの暴力を非難するスピーチをします。その翌日スウェーデンでは世界に先駆けて子どもへの体罰を法律で禁止しました。

スウェーデンで子どもと暮らす中で、育児休業や児童福祉などさまざまな場面で、子育てに関する恩恵を社会から受けていることを感じます。そして「子どもを個人として尊重する価値観」がこの国には浸透していることを実感します。

セーデルマルム島の子ども服の店「Betón(ベトン)」

今回はストックホルムの東側の人気エリアNytorget(ニィトリエット)にある子ども服のお店をご紹介します。
もともとは植物染めで体に優しい素材で作られたモカシンシューズをSNSで販売していたオーナーのペトラさん。

ころんと丸い可愛らしいデザインの靴はインスタグラムで大人気になり、2017年にストックホルム中心部の人気エリアに実店舗を構え、2020年に現在のより広い店舗に移転しました。お店で展開する単色のやわらかな色使い、オーガニックコットンで作られた子ども服ブランド「façade(ファサード)」は、ペトラさんご自身が子どもに着せたい服がなかったことから、カメラマンの親友とはじめたのだそう。シンプルでゆったりとした形、タイムレスなデザインや色合い、長く着られること、丈夫であることがコンセプト。あっという間に大きくなってしまう子どもでも、2年くらいは着られるように少しオーバーサイズにデザインされているのだそうです。

お店では、サスティナブルに取り組んでいたり、エコロジカルな思考をもって運営されているブランドのもの、小さな作り手が生み出す子ども服やおもちゃなど、ペトラさんが厳選した色や形が素敵なアイテムたちも並びます。インテリアや大人のファッション、アートなどからインスピレーションを受けているというペトラさん。「スウェーデンは今ベビーブームで小さな赤ちゃんをたくさんみかけます。もともと5月くらいから夏の間のこの時期は、たくさんの赤ちゃんが生まれるんですよ。ベビーシャワーでお祝いする人も多いわ」
お店に一歩足を踏み入れると、穏やかな色合いに思わず優しい気持ちになるお店「Betón」。セーデルマルム界隈のお洒落なパパやママに愛される子ども服のお店です。

Betón
https://www.betonstudios.com

大人のための学校フォルクフォグスコーラ
「学ぶ」を楽しむ大人の夏休み

私がスウェーデンに来たきっかけは、Folkhögskola(フォルクフォグスコーラ/国民高等学校)への留学でした。ここは18歳以上の成人のための学校で、スウェーデン各地に約150校あり、さまざまな科目を1〜3年かけて学べる場所です。Allmän kurs(アルメンクーシュ/普通科)と呼ばれる一般コースの他に、芸術、音楽、メディア、手仕事などクリエイティブな学科から、ジャーナリストになるためのコースや起業家育成コースなど仕事に直結するコースもあります。寮費・教材費・ランチやフィーカなどの食事代は別途かかりますが、授業料はなんと無料。
普通の学校との最大の違いは、生徒の自主性が尊重されている点だそうです。もちろんそれぞれのコースには何が学べるかの指針や明確な目標はありますが、カリキュラムがはっきりと決まっていて試験などに合格しなければ卒業できない高校や大学のようなシステムではなく、自分が何を学びたいかが重視され、生徒には責任を持って積極的に授業に参加し、より良い学びの場になるために貢献することなどが求められます。
グループワークも重視されていて、文化や考え方も違う老若男女さまざまなバックグラウンドをもつ人々が集まり、多様性が生まれる学びの場になるのだそう。
生徒たちは、学びや新しい出会いを通して新しい自分を発見したり、目標を設定しそれを実現させるプロセスを考えたりするなど、学ぶ楽しさを実感できる大人のための学校なのです。

通常は通年コースで運営されていますが、夏の間は1-2週間の短期コースを開催しているフォルクフォグスコーラも多く、5週間の長い夏休みを取るのが一般的なスウェーデンでは、余暇を利用して地方にあるフォルクフォグスコーラのサマーコースに参加するのも夏の楽しみ方の一つ。※サマーコースは通常授業料がかかります。

手仕事の伝統が色濃く残るダーラナ地方/レクサンドにもフォルクフォグスコーラがあります。
学校のはじまりは、今から70年前、風光明美な土地に魅せられ移住した芸術家グスタフ・テオドール・ワレーンが「この地の若者達が手仕事を学べる学校が必要だ」と考え、1947年に住まいとアトリエを寄贈し学校を作ったことに由来しています。

通年コースでは、鍛造、製本、デザイン、陶芸などの手仕事が学べ、夏の間はこれらの教科の基礎を学ぶ1週間のサマーコースがあります。
「ライティング、民族音楽、木工、ガーデニングや農業などのクリエイティブなジャンルのサマーコースは、スウェーデンでは最近人気が出ていますね。手仕事を学んで、素材への理解を深めたり、芸術的な表現を学んだり、自分の興味のある分野に挑戦したり。人として成長するために、長い休みの1-2週間をサマーコースでの学びにあてる人は年々増えてきていると思います。」とレクサンドフォルクフォグスコーラの広報担当フィア・パルムグレンさん。
シリヤン湖沿いの高台の最高のロケーションで、3食フィーカ付き、寮に宿泊して学びに没頭する大人な夏休みの過ごし方も素敵ですね。

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by Sweden House
人と環境にやさしい住まい「スウェーデンハウス」。高い住宅性能を備えているからこそ叶えられる、快適で豊かな暮らしをご提供しています。

スウェーデンハウス公式サイト

明知直子
千葉大学教育学部卒業後、IDÈEにて家具販売とインテリアコーディネートに携わる。2007年にスウェーデン北極圏の街キルナへ留学。その後ストックホルムで写真を学び、現在はストックホルム郊外の群島アーキペラゴ在住。書籍や雑誌記事の執筆·撮影、日本とスウェーデンに関わるプロジェクトや企画のコーディネートを生業とする。