コラム from Sweden
北欧の暮らし

ハウスメーカー【スウェーデンハウス】がお届けする、
時季折々の北欧のコラム。

第79回
ヘムスロイド(家庭の手工芸)

1.祖母の世代の手編みの鍋つかみ
冬の長いスウェーデンでは、昔は家で手仕事をする人がとても多く、スウェーデン人の家庭を訪ねると、祖母が作ったという手編みの鍋つかみや刺繍の施されたリネンなど、今の暮らしの中にも昔ながらの手仕事が見つかります。

スウェーデン語で「家庭の手工芸」を「ヘムスロイド」といいます。ヘム/Hemはホーム、スロイド/Slöjdは手工芸という意味があり、もともとは家庭の暮らしに必要だった衣服や織物、家具や道具などを手作りしたことの総称です。  

100~200年前のスウェーデンは農業と手工芸で成り立っていたヨーロッパの小国で、手工芸に関しては17世紀頃までさかのぼるほど歴史があります。その土地ならではの伝統的な素材を使い、編み物、刺繍、木工、陶器、鉄製品などの手工芸が発達しました。

ヘムスロイド

産業主義の浸透とともに家庭での手工芸を販売することで人々の暮らしを改善するため、1912年にスウェーデン手工芸の全国協会(ヘムスロイデン/Hemslöjden)が設立されました。スウェーデン手工芸協会は、厳選された各地の手工芸品を販売するショップや、各協会の活動を紹介する「ヘムスロイド誌」を運営しており、各地のヘムスロイデンのショップでは、その土地ならではの手工芸品を見ることができます。

手工芸を意味する「スロイド/Slöjd」は小中学校の科目のひとつでもあり、日本の図画工作のような科目です。子どもたちの創造性を高め、日々の暮らしの中での課題を解決する能力を養うスロイドは、個人と社会の両方の発展にとって重要な科目となっています。
スウェーデンの人々は家の修繕を自分で行うことが一般的で、家の中に手仕事があることを心地よく感じています。祖父母の時代に手作りされた温かみのある手作りの品を、今もなお長く大切に使っています。


グスタフスベリ陶磁器博物館のリサ・ラーソン展

2.リサ・ラーソン展の入り口
丸みを帯びた温かみのある陶器が有名なリサ・ラーソン。彼女の個展が、2020年6月〜2021年4月まで、ストックホルム郊外のグスタフスベリ陶磁器博物館で開催されています。リサは1954年にスティグ・リンドベリに誘われてグスタフスベリ陶器工房で働きはじめますが、その際にリンドベリがリサに送った手紙も展示されています。当初リサは1年間工房に滞在する予定だったそうですが、実際にはグスタフスベリに26年間滞在して数々の作品を作り、ベストセラーシリーズを数多く生み出しました。リサは1992年にグスタフスベリにセラミックスタジオを設立し、今でも人気のコレクションが作り続けられています。今回の展覧会では、1954年から1980年までの約200点の作品が展示されていますが、キャリア中にいくつの作品が作られたかは知る由もないそうです。動物のフィギュアなどヴィンテージとして知られている作品から、一点もののあまり知られていない作品まで、さまざまなオブジェが展示され、リサ・ラーソンをより深く知ることができる興味深い展覧会です。彼女は日本の陶芸家、浜田庄司とも交流があり、「民藝」という言葉にも触れています。『1924年に柳宗悦が提唱した「民藝」とは、機能的で日常使いの価格で手仕事で作られたものであり、1900年代前半にスウェーデンでも提唱された「Vackrare vardagsvara/日用品を美しく」の活動を思い起こさせる』、と説明しています。

リサ・ラーソン展

Mysig/あなたのミューシグを教えて下さい

14.19世紀のタイル暖炉は今でも現役
ミューシグ/mysigとは、居心地のよい空間で気持ちが落ち着き、心からリラックスできることを表わすスウェーデン語の形容詞です。今回「あなたのミューシグ」をお聞きしたのは、ストックホルム郊外の一軒家にお住まいのフードスタイリスト、サンナ・フュリング・リードグレン(Sanna Fyring Liedgren)さんです。今から100年以上前の1905年に建てられたという一軒家には、19世紀に主流だったタイル貼りの暖炉があります。サンナさんが好きなインテリアはヴィンテージやセカンドハンドで、ご両親や祖父母から譲り受けたものもあります。
初めにミューシグな場所と教えてくれたのは、ご主人のおばあさまから譲り受けたアームチェアです。ここにすわってのんびり本を読む時間が好きなのだそうです。譲り受けた当初はデザインが時代遅れだと思っていましたが、時が経つとともに好きになっていき、今ではいちばんのお気に入りになりました。家族がくつろぐリビングルームの天井の照明は義母さまが誕生日のお祝いにくれたもので、韓国人のデザイナーのペーパーワークです。
16年前に3人の子育てのために、広い庭のあるこの大きな家に引っ越してきたこともあり、家の中には家族の思い出がたくさんあります。今ではいちばん下のお嬢さんだけが一緒に住んでいますが、家族の思い出と呼ばれる壁には家族がそれぞれ好きなものを飾っています。庭には温室があり、野菜や果物を育てています。温室内のテーブルでフィーカをしたり植物を眺めたりして過ごす時間はミューシグなひとときです。

手作りの焼き菓子と紅茶のフィーカ


フードスタイリスト、サンナ・フュリング・リードグレン(Sanna Fyring Liedgren)さんは、今は亡きお父さまが料理人だったこともあり、料理に興味を持ち、クッキングブックのレシピの開発やスタイリングを担当したり、料理を仕事にしています。オリジナルのマーマレードを販売したり、最近はアクアビットも作っているそうです。
広い庭には25本もの林檎の木があり、秋にはたくさんの林檎が実ります。15種類はあるという林檎を採ってきて、アップルソースを作ったり、アップルケーキを焼きます。薄切りにしてオーブンで乾燥させた林檎スライスはデコレーションに使います。ケーキに林檎スライスを載せてパウダーシュガーをふるうと、まるでメイクアップしたように美しくなりました。サクサクしたファーマーズクッキー/Bondkakorとしっとりしたジャムクッキー/Syltkakorはスウェーデンの昔ながらの焼き菓子です。サンナさんのフィーカには、こうした手作りのケーキやスコーンやクッキーが並びます。
「私のフィーカは紅茶が合うと思うの。それもフレーバーティーではなくシンプルな紅茶」とサンナさん。スウェーデンで紅茶といえばフレーバーティーが主流ですが、サンナさんはアッサムやセイロンなどのストレートティーがお好みです。ティーカップはおばあさまから譲られたという1920年代ごろの英国製ヴィンテージ。クッキーを載せている器は地元の陶芸作家の作品。さまざまなストーリーがあるフィーカのおもてなしは、そのお話を聞くだけでも楽しくなってきます。

26.	英国製ヴィンテージテーブルウェアのフィーカ

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by Sweden House
人と環境にやさしい住まい「スウェーデンハウス」。高い住宅性能を備えているからこそ叶えられる、快適で豊かな暮らしをご提供しています。

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山本由香
ライター:山本由香(デザインコンサルタント)
1998年からスウェーデンのストックホルムに暮らす。2005年に「北欧スウェーデンの幸せになるデザイン」の出版を機に、ストックホルムにてswedenstyle社を起業。執筆や日瑞企業のコーディネートをはじめ、スウェーデンデザイン、文化を日本にソーシャルメディア等を使い広く発信中。